【連載】今日から使えるミリタリー雑学講座~第23回 ソウル「ADEX2015」リポート!

10月20日から26日の6日間、東アジア最大規模の航空ショー兼防衛装備展示会「ADEX2015」(Seoul International Aerospace and Defence Exhibition)が、韓国の首都ソウルで開催されました。

ADEXは航空自衛隊の基地祭などどは異なり、企業がビジネスチャンスをつかむために製品をアピールする、いわゆる「トレードショー」の性質も備えています。
ボーイングやエアバス・グループ、BAEシステムズといった大手メーカーが多数出展していますが、実機に関しては韓国軍と在韓アメリカ空軍機の展示がメインとなっていました。
今回はADEX2015で展示された注目すべき航空機を紹介したいと思います。

韓国空軍は現在5種類の戦闘機を運用していますが、その中で最も高い能力を持つのが、F-15K スラムイーグル
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F-15Kは一見する限り、航空自衛隊が運用しているF-15J/DJと大きな違いはないように見えるかもしれません。しかし、航空自衛隊のF-15J/DJが空対空戦闘に特化しているのに対して、アメリカ空軍などが運用するF-15E(戦闘攻撃機型)をベースに開発され、空中発射型巡航ミサイル「SLAM-ER」や、「ハープーン」対艦ミサイルといった精密誘導兵器の運用能力が付与されています。

空対空戦闘能力に関しても、発射後の誘導を必要としない「撃ちっぱなし」能力を持つ中射程空対空ミサイル(F-15J/DJでは近代化改修型でしか運用できない)と、自機の正面以外に位置する目標に対しても攻撃できる短射程空対空ミサイルの運用能力を全機が備えており、現時点において、世界のF-15の中で最も高い能力を持つともいわれています。

韓国空軍が運用する戦闘機の中で最も新しいFA-50は、超音速練習機T-50をベースに開発された機体です。
開発にはロッキードマーチンが協力しており、機体の形状はF-16によく似たもの。
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F-16の遺伝子を持つ共同開発機という意味においては、航空自衛隊のF-2といとこのような関係といえるかもしれません。
FA-50は安価なわりに使用できる兵装の種類が多く、また元が練習機だけに良好な操縦性を持つことから、フィリピンやイラクなどで採用。アメリカ空軍が現在運用しているT-38練習機の後継候補にも名前が挙がっています。

なお、練習機型のT-50は韓国空軍のアクロバットチーム、第239特殊飛行大隊「ブラックイーグルス」でも使用されています。
ブラックイーグルスはかつてA-37B軽攻撃機を使用していましたが、T-50への機種転換にあたっては、アメリカ空軍のサンダーバーズやアメリカ海軍のブルーエンジェルス、航空自衛隊のブルーインパルスなどに要員を研修派遣しています。
このため飛行の見せ方も洗練されており、2012年にイギリスで開催されている世界最大級の軍用機ショー「ロイヤル・インターナショナル・エアタトゥー」に参加した時には、デモンストレーション飛行の最優秀賞を受賞しています。

韓国空軍はF-4EファントムⅡF-5E/FタイガーⅡというベテラン戦闘機も運用されていますが、これらは近い将来の退役が予定されています。
会場にはF-4EとF-5E/Fの後継となるF-35Aの実大モックアップが展示され、コックピットに試乗するための行列が後を絶ちませんでした。
103wwれましたが、残念ながら一般公開はありませんでした。
F-35のコックピットは機体のわりに大きく、また従来の戦闘機とは計器のレイアウトなどが大きく異なっているため、モックアップのコックピットに座っただけでも、F-35が従来の戦闘機とは一線を画する機体であることを実感できます。
来年10月に東京ビッグサイトで開催される東京国際航空宇宙展では、ぜひモックアップのコックピットに試乗する機会を設けてもらいたいものです。

韓国空軍が運用する戦闘機の中で最も数の多いF-16と、F-16を韓国でライセンス生産したKF-16は、今回のADEXでは地上展示がありませんでした。
F-16とKF-16には近代化改修が行なわれる予定となっており、今後も長期に渡って使用される見込みですが、その一方でF-16/KF-16を後継する国産戦闘機「KF-X」の開発計画が進められており、今回のADEXでは模型が展示されました。
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KF-XはF-22に似たフォルムを持つ戦闘機ですが、F-22やF-35のように、兵装を内蔵するウェポンベイ(兵器倉)は備えておらず、開発を担当する予定のKAI(Korean Aerospace Industry)では、KF-XをF-22やF-35のような「第5世代」戦闘機ではなく、ユーロファイター・タイフーンやスホーイSu-30のような「第4.5世代」よりも能力の高い「第4.5世代+」として位置づけているようです。
「第4.5世代+」であれば「第5世代」戦闘機よりも、開発に必要な技術力や経費は少なくて済みますが、韓国側が期待していたレーダーなどの技術の供与をアメリカが拒否したことから開発には黄色信号が灯り、現在では大きな政治問題に発展しています。

今回のADEXには、KF-Xに大きな影響を与えたと見られているF-22Aラプターも参加していました。
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日本よりも中国大陸に近い韓国では「PM2.5」の影響が大きく、今回のADEXでも上空にモヤがかかった状態となることが多かったのですが、不思議なことにF-22Aがデモフライトを行なう時には、青空が顔をのぞかせていました。
F-22Aには一時期、「スーパースター」というニックネームを付けることが検討されていましたが、いかなる環境下でも舞台が整ってしまうあたりは、やはり戦闘機界のスーパースターといわれる所以なのでしょうか。

このほか今回のADEXには、イギリス空軍の戦術輸送機A400M アトラスも参加しています。
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A400Mの参加はアジア太平洋地域への遠距離展開訓練と、友好国への親善を兼ねたもので、ソウルからの帰路には航空自衛隊の美保基地とアメリカ空軍の横田基地へも立ち寄っています。日本でご覧になった方もいると思います。

ADEXでは航空機だけでなく、戦車などの装甲車輌や銃器などの展示も行なわれています。次回はADEXに参加した車輌や銃器などをご紹介します。

※記事中の写真はすべて著者撮影

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竹内 修

ライターから不動産シンクタンクを経て、ミリタリー業界に迷いこんできた
自称軍事評論家。サバゲーは長期休業中だが、運動不足解消を兼ねてまた始めよ
うかなと思案する今日このごろ。L85とかF2000のような、ちょっとクセのある銃
が好き。

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