じめじめする日が続きますね、アヤベです。
この連載では、自衛隊員の愛らしい(?)特徴についておはなししていますが、今回の特徴はちょっと深刻です。先週の『○○チン問題』よりも、相手の心に深い動揺を与えてしまうもの。
それは、挙手するときの手の挙げ方。
というのも、隊員は、「ハイ!」と挙手をするときに、一風変わったしぐさをするからなんです。どんなものかといいますと、右手で「グー」を握り、その握り拳を突き上げるように斜め前方に出すという、デモ隊のような攻撃的スタイル。入隊直後の教育隊で叩き込まれるもので、全く他意はないのですが、知らない人が見ると、ビックリしちゃいます。
これには流派がありまして、
・黙って拳を掲げ、目で「ハイ!」と言う無言流
・声に出して「ハイ!」と言いながら拳を突き出す有言流
・同意や賛成を示すときは無言だけれども、意見や質問があるときは「ハイ!」という臨機応変流
という3つが確認されています。
どれも、ちょっと怖いですよね。
自衛隊の基地では、隊員の教育のために部外講師が訪れることがあります。彼らをビビらせてしまうのが、この挙手なんです。
講演会に慣れている人は、その場の雰囲気を確かめたり、場を和ませたりするために冗談を言うことがあります。フィナンシャルプランナーのKさんもそのひとり。彼女は、ほぼ全員が手を挙げそうなこと、たとえば小学生相手に、「皆さんの中で、小学生の人は手を挙げてください」なんて言うのがお決まり。
Kさんは陸上自衛隊のある駐屯地での講演でも、自己紹介を終えて本題に入る前、ニッコリ笑って同じことを言いました。
「皆さんの中で、自衛官の方がいらっしゃいましたら、手を挙げてくださーい!」
いっせいにヌッと上がった握り拳に、Kさんは「ヒィッ」とド肝を抜かれました。この駐屯地の隊員は「無言流」か「臨機応変流」だったんですね。でも、そんなことは知る由もありません。
それぞれの拳が全て、まるで責めるかのごとく自分に向かい、その拳の持ち主に睨むような双眸でギラギラと見つめられ――。
――抗議のシュプレヒコールでも始まるのだろうか。
――講演内容になにか不満があるだろうか。
いろんな想像をしてしまったKさんは、すっかり調子が狂ってしまい、講演の序盤はしどろもどろになってしまったのでした。
Kさんは、「誰でも手を挙げるような質問」をして、いっせいに拳が挙がってビックリしたわけなのですが、ひとりしか手を挙げないような質問の場合はどうなるのでしょうか? 隅っこの隊員が挙手していたら気がつかないかもしれませんよね。
そこで「無言流」の隊員に、「意見・質問」の挙手をして、気がついてもらえなかったらどうするのかと訊ねてみたところ――「気がついてもらえなかったことがないので、考えたことがない」とのことでした。鋭い眼光がレーザー光線なみに相手を射抜くので、どんな隅っこで挙手をしていようが、気配で気づかれてしまうんです。
ひとりでも怖い、大人数だともっと怖い。凛々しさが、時には怖さに感じられてしまう瞬間です。でも、本人たちに全く敵意はないんですよ。ただのクセ、習慣でしかありませんので、ビックリしないであげてくださいね。とはいえ、やっぱり、ビックリしちゃいますよねぇ~。
イラスト:モノ
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