暑くなってまいりましたね、アヤベです。
今回は、自衛官の弱点について、こっそり教えちゃいます。
実はね、日本人なら子どもから大人まで誰でもできる、とってもカンタンことが、自衛官はできないんですよ。
それは――ラジオ体操!
ラジオ体操みたいな簡単な運動が、まさかできないはずはないと思うでしょう? できないんですよ、これが。ホントに。
でも、ほとんどの隊員は、ラジオ体操ができなくなっていることに、気がついていません。大人になったら、普通の人でも、わざわざラジオ体操なんかしませんものね。しないけど、あの音楽がかかればできてしまう――はず。
しかし、ラジオ体操の音楽がかかると、自衛官はオロオロとうろたえてしまいます。
陸自・空自隊員は「握りこぶしをつくって、小さく前へ習え、のような格好をしたあとに、その手をどこに持っていけばいいかわからず、呆然とこぶしを見つめる」という、うろたえかたをします。
海自隊員の場合は「膝に手をあてて屈伸運動をしようとして、何かが違うことに気がついてキョロキョロする」という、うろたえかたです。
隊員は、このときはじめて、ラジオ体操ができなくなっている自分に気がつくのです。
原因は『自衛隊体操』にありました。
隊員は、入隊するとすぐにこの自衛隊体操を覚えさせられます。身にしみついてしまうので、退職するまで忘れることはありません。陸自と空自の自衛隊体操は同じものですが、海自の自衛隊体操は、陸・空とはちょっと違うんです。狭い甲板でも行えるように、あまりスペースを必要としないのが特徴で、第1~第5まであります。通常行うのは「第1体操」です。
小学校が夏休みに入ったある日の朝。非番のN2曹は、愛娘と一緒に近所の学校の校庭へラジオ体操に出かけました。
例の音楽が始まったとたん、陸自隊員のN2曹は「こぶしを握った前へならえスタイル」のまま、硬直してしまいます。娘が生き生きと元気よくラジオ体操をしているのをみながら、ずりずりと後ずさりをしていくN2曹。
N2曹が、ちょっと離れたところでポカンとしていると、もうひとり、変な動きをしている大人が目に入りました。
それは、別の部隊のS1尉。ほどなくしてS1尉もラジオ体操についていくのをあきらめて集団から離脱。ふたりは顔を見合わせて、自分たちにかかってしまった「自衛隊体操の呪い」という運命から逃れられないことを知ってしまったのでした。
その日のふたりが、子どもたちに散々バカにされたのは言うまでもありません、午前中いっぱい使って子どもたちと一緒に特訓し、一応はラジオ体操を思い出したふたり。でも、いったん基地での仕事に戻って、朝礼や準備運動で自衛隊体操をやってしまうと、せっかく思いだしたラジオ体操が上書きされて、また、できなくなってしまったとのこと。
朝のラジオ体操には二度といかなくなったN2曹とS1尉。年齢も職種も階級も全く違う、顔見知り程度だったふたりでしたが、そこには強い絆が生まれ、のちに家族ぐるみでお付き合いをすることになりました。
ラジオ体操を上書きしちゃうくらいの、この自衛隊体操。本気でやると、なかなかの運動量なんですよ。また、運動としての自衛隊体操と、演技としての自衛隊体操はちょっと見せ方が違うのです。演技としての「見せる自衛隊体操」は、教育隊のある基地の開庁祭などで、運がよければ見ることができるかもしれません。
全員がピシッと統制の取れた動きで行われる自衛隊体操は、見ていて気持ちがいいですし、やっていても気持ちがいいものなのです。ラジオ体操ができなくなることくらい、小さな痛みでしかない――かな?
ちなみに、退職したアヤベはというと、たった5年間在職していただけですが、ラジオ体操はもちろんすぐにできなくなり、このところは自衛隊体操もだんだん怪しくなってきて、ついに、どちらもできなくなってしまいました。おろおろ。
イラスト:モノ
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