昨年のちょうど今ごろ、私はアグスタウェストランドというヘリコプターメーカーの取材でイタリアを訪れていたのですが、そこで一緒になったイタリアの航空ジャーナリストから
「ハヤオ・ミヤザキ(宮崎駿)の『風立ちぬ』を観たんだが、『風立ちぬ』って、どういう意味なんだい?」
と質問されました。それほど英語が得意なわけではない私は、しばらく答えることができなかったのですが、そのイタリア人ジャーナリストは『紅の豚』の飛行機の描写に魅かれ、宮崎監督の映画をずっと観続けているんだと語っていました。
その『紅の豚』の主人公であるポルコ・ロッソの駆る「サヴォイアS.21試作戦闘飛行艇」は架空の戦闘機です。
ただ、イタリアで製造された戦闘機にもかかわらず、武装には信頼性の高いドイツ製のMG08 7.92mm機関銃を搭載しています。
またポルコ・ロッソは「捻り込み」というテクニックを得意としていますが、これは太平洋戦争中、坂井三郎中尉をはじめとする技量の高いパイロットが使用して有名になったもの。
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このあたりのこだわりが外国の航空ジャーナリストを魅了したゆえんなのでしょう。
『紅の豚』と並ぶ、レシプロ戦闘機の戦いを描いた日本のアニメの秀作の一つに、松本零士原作のOVA「ザ・コクピット」があります。
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この作品の原作となった「戦場まんがシリーズ」は、メカの描写もさることながら、パイロットの心理を丁寧に描いていることが大きな魅力。
松本氏の父は旧日本陸軍でテストパイロットを務めるほどの優秀な戦闘機パイロットでしたが、戦後は「敵(アメリカ)の戦闘機には乗れない」といって航空自衛隊への入隊を拒否したとのエピソードが残されています。
OVA版「ザ・コクピット」の「成層圏気流」と「音速雷撃隊」の2話に登場するパイロットたちの心理描写が卓抜しているのは、父の生き様を目の当たりにしてきた彼ならではといえるでしょう。
なお、代表作である『キャプテンハーロック』には、暇さえあれば飛行機のプラモデルを造っている「ヤッタラン副長」というキャラクターが登場します。アシスタントを経て独立した新谷かおる氏がモデルといわれていますが、さすがにモデルとなっただけのことはあって(?)、戦闘機の登場する数々の作品を世に送り出しています。
その中で最も有名なのは、2度に渡ってアニメ化された『エリア88』でしょう。
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『エリア88』の主人公である風間真の3番目の愛機であるサーブ・ドラケンは、スウェーデンで開発された戦闘機ですが、スウェーデンは紛争地帯への兵器輸出には慎重な国で、実際は『エリア88』の舞台となっている中東で、この戦闘機を入手することはほぼ不可能だったと思われます。
普通の作品であれば、ドラケンの入手経路は曖昧にしてしまうところなのですが、『エリア88』では2機分のスクラップを寄せ集めて1機を形にしたこと、また砂漠地帯で運用するために多数の改造が必要となったことなどを入手を担当した武器商人のマッコイじいさんに語らせています。
『エリア88』には中盤、地中を潜行する陸上空母(!)のようなトンデモ兵器が登場したり、一旦除隊した後、あるいきさつから大金を得て戦場に舞い戻ってきた風間真が、グラマンX-29(前進翼実験機)を無理やり戦闘機に仕立て上げるといった、ツッコミどころも多々あるのですが、ドラケンのエピソードに代表されるメカニックへのこだわりが、こうしたツッコミどころにすら「もしかしたら・・・」と思わせるだけの力を与えたといえます。
未来を舞台にしたアニメではロボットが主役を張ることが多く、戦闘機は脇役として扱われることが多いのですが、「マクロスシリーズ」は人型に変形できる戦闘機(ヴァリアブル・ファイター)が一貫して主役メカを務めます。
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戦闘機からロボットに変形するメカはそれ以前から多く存在しますが、マクロスシリーズに登場するヴァリアブル・ファイター(可変戦闘機)は、それらとは一線を画したリアリティ。
デザインを手がけている河森正治氏はデザインにあたって、戦闘機形態では空力を考慮して、ちゃんと飛べるようなデザインとすることを心がけているとのことで、このためほとんどのヴァリアブル・ファイターは、実在する戦闘機をモチーフにデザインされています。
第一作である『超時空要塞マクロス』に登場するVF-1バルキリーが、映画『TOPGUN』に登場して人気を集めた艦載機グラマンF-14トムキャットをモチーフとしていることはよく知られています。
他にも『マクロスプラス』に登場するYF-19はロシアのスホーイSu-27と『エリア88』にも登場したX-29、ライバルのYF-22はアメリカ空軍の主力戦闘機選定でロッキード・マーティンのF-22ラプターに敗れたYF-23を、『マクロスF』に登場するVF-25はSu-27とF-14をそれそれモチーフにしています。
また、アニメに登場するメカの多くは、ビームやレーザーなどの光線兵器が主武器ですが、ヴァリアブル・ファイターは口径30~60mmの実体弾を発射するガトリング式のガンポッドとミサイルを主な武器としています。
現実の世界でも光線兵器は実用化されつつありますが、発射装置とエネルギータンクをどう小型化するかが大きな課題。アメリカはレーザー発射装置を航空機に搭載して弾道ミサイルを撃墜する計画を立てましたが、発射装置とエネルギータンクを搭載する航空機には、超大型旅客機であるボーイング747を選定しています。
現時点での最新作『マクロスF』も、その時代設定は今から約40年後とされていて、マクロスシリーズの世界では、異星人から入手した技術によって大幅な技術革新が進んだことになっています。その設定に頼って光線兵器を多用していないことも、ヴァリアブル・ファイターに大きなリアリティを感じる理由でしょう。
マクロスシリーズは現在も継続中で、『マクロスΔ(仮)』というタイトルの新作の製作も構想されているようで、この最新作に登場するヴァリアブル・ファイターが、実在するどの戦闘機をモチーフにしてデザインされるか想像してみるのも楽しいかもしれません。
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