飛行機好きでなくても、さばなびの読者でなくても、「ブルーインパルス」を知らない日本人はいないでしょう!
先日の接触事故では大事に至らなくてなによりでしたね。
このブルーインパルス、スゴいのはわかってる。
でも、「なんかスゴい」「なんとなくスゴい」という
曖昧な印象をお持ちではありませんか?
じゃあ、具体的にどのへんがどのくらいスゴいんだ!
ということで調査してみました。
結論から申し上げますと、「やっぱりめっちゃスゴい」のでありました。
■ 任期がスゴい!
「創造への挑戦」をモットーとするブルーインパルス。
正式には松島基地にある「第4航空団飛行群第11飛行隊」という、
広報活動をする部隊です。
この第4航空団飛行群隷下には、
もうひとつ「第21飛行隊」という部隊があり、
ここではF-2パイロットの飛行教育を行っています。
つまり、松島基地の戦闘機は、ブルーインパルスか練習機。
スクランブルがかかるような第一線の部隊ではないのです。
ブルーインパルスのパイロット、「ドルフィン・ライダー」の任期は、なんと3年。
意外と早いスパンで配置換えになっているんです。
1年目はTR(訓練待機)として演技を修得します。
展示飛行のときには、ナレーションを担当し、また後席に搭乗します。
3年目は展示飛行を行いつつ、担当ポジションの教官として、
TRメンバーに演技を教育します。
(航空自衛隊広報サイトより)
http://www.mod.go.jp/asdf/pr_report/blueimpulse/pilot/
だから、「ブルーインパルスのパイロットとF-15のパイロットが戦ったらどっちが強いの?」なんて質問は無意味。
F-15のパイロットの中にも、元ドルフィン・ライダーがいるわけなんですよ。
たった3年の任期であんな展示飛行ができてしまうもの? ……それは、スゴい。
パイロットの熟練度は、累計飛行時間に比例するといわれます。
航空自衛隊のパイロットの年間飛行時間は200時間程度と、
他国と比べてトップクラスの長さを誇ります。
ちなみに、某国から亡命してきた戦闘機パイロット、年間飛行時間が20時間以下だったとの証言があったり……
この「飛行時間」とは、厳密にいうと離陸してから着陸するまでのこと。
日本は国土が狭いので、訓練空域にたどり着くのが早い。
累計飛行時間のうち、移動時間が少ないのです。
つまり、累計飛行時間が同じなら、
航空自衛隊のパイロットの方がより長く訓練をしているんです。
編隊飛行中の間隔は、それぞれの機体の「この部分が見えるくらい」とか、感覚的なものでやっているそう。
体で覚えるものなんですね。
えっ、クルマだって感覚で運転しているじゃないかって?
いやいや、クルマでの移動は前後左右、所詮二次元の平面でしかないんです。
航空機はそれに高度が加わった三次元空間です。
そして、なんといってもG がかかる!
そこは、地上生物の生存条件を無視した空間。
通常、戦闘機の操縦では、+G といって下方向のG が主。
脚部に空気圧をかけたりして防止策を講じていますが、
それでも4~5G がかかると「ブラックアウト」が起こることも。
脳にまわる血液が減って、ぼんやりしたり目がかすんだり。
場合によっては意識を失ったりしてしまいます。
そんな、脳細胞にも体にもハンデを抱えた状態で三次元の高機動操縦をしながら、数多くの計器やレーダー機器を確認し、ミサイルをセットし、近接戦では機関砲を操作して……あー、ムリムリ。
ごめんなさい。地上で車を運転しながらカーナビの操作をするのとはワケが違うんです。
それに加えて。
ブルーインパルスが行うアクロバット飛行では、旋回を続けたり機首を急激に下げ続けたりすることで、逆方向、つまり頭部方向への-G がかかるときがあります。
そうすると今度は頭部に血液が集中!
眼球の血管にそれが起きると視野が真っ赤になる「レッドアウト」が発生。
場合によっては失明の危険性もあります。
このレッドアウト、脚部のように対策が取れない!
だって、首から上って圧迫できないじゃないですか。
+G より-G の方が気持ち悪いんだって。気持ち悪いどころの問題じゃないと思うけどね!
この+G と-G の狭間を行き来しながら、美しく揃った展示飛行を行うドルフィン・ライダー。
……やっぱり、スゴい。
「ドルフィン・ライダー」を支えるのは「ドルフィン・キーパー」と呼ばれるスタッフたち。
飛行場の滑走路で専用のサングラスをかけて手信号を送っている人、見たことありませんか?
彼らは、機体のメンテナンスをする航空機整備員。
ドルフィン・キーパーのメンテナンスクルーの一員です。
各機体には機体付といって、三名一組の専属クルーが整備を担当しています。
パイロットの命を預かる機体だから、絶対に妥協はしません。
そのぶん、朝早くて夜遅い。広報を行う部隊だから、機体の磨き上げ方もハンパない。
そのへんのショールームのクルマにも勝ります。
パイロットとメンテナンスクルー、整備についての議論は真剣です。ときには口論になることも。でも、それは任務に忠実な仲間同士だからこそ。
パイロットのラストフライトの時には、フンドシなどの仮装をして誘導するオチャメな演出もあるのだとか。
その他に、もしもの時にパイロットを救うための装備を扱う救命装備員、フライトスケジュールの管理や調整を行う飛行管理員、総務員や補給員などのサポートスタッフ。
操縦以外の全ての任務をドルフィン・キーパーが行っています。
ちなみに、気象担当のスタッフは「いつになったら飛べるんだ!」と怒鳴られたり……スタッフが天気を変えられるわけじゃないよ! り、理不尽。
最高の展示を支えるのは、最高のスタッフ。……こっちも、スゴい。
調べてみるとやっぱりスゴかったブルーインパルス。来たる2020年のオリンピックでは、東京の空にキレイな五輪を描いてほしいですね!
(文/綾部綾)