アフガニスタンで銃撃に遭った中村哲医師を偲んで…著書『ほんとうのアフガニスタン~18年間“闘う平和主義”をつらぬいてきた医師の現場報告~』が電子書籍になって復刊&特別に一部公開

2019年12月4日に、アフガニスタン東部ナンガルハル州の州都ジャララバードで人道支援に取り組んできたNGO「ペシャワール会」の現地代表で、医師の中村哲さん(73)が銃撃に遭い亡くなられました。
中村哲医師を偲んで、2002年に光文社より発売された著書『ほんとうのアフガニスタン~18年間“闘う平和主義”をつらぬいてきた医師の現場報告~』が電子書籍にて復刊しました。

 

私たち日本人はいま、何ができるのか、どうすれば役に立てるのか、知りたいことがここにある。

2019年12月4日、中村哲は凶弾に斃れた――。内戦や外国の侵攻、大干ばつで疲弊する国土。
1984年現地に赴任。
医療から始まった支援は、井戸掘りや用水路建設にまで発展した。
現実を報道しない報道機関、現地から撤退する国際団体があるなか、決して見下ろすことなく現地の人とともに生き、この地に身を捧げた。混迷する世界情勢の今こそ何をなすべきか? 著者が貫いた生き様と信念を通して見えてくる。
井上ひさし氏との対談も収録。
現地の貴重な写真を豊富に交え、アフガニスタンの実態を伝える。

※ペシャワール会会員と協力者により撮影されたものです。

 

【目次】

  • いのちの闘い―アフガニスタンの十八年(私とらい〈ハンセン病〉との出会い、ソ連侵攻とアフガン戦争の主な戦場は農村だった ほか)
  • ほんとうのアフガニスタンが知りたい―講演会場のQ&Aから(日本の自衛隊派遣について、北部同盟のカブール解放 ほか)
  • 日本人にいま何ができるか―中村 哲+井上ひさし+福元満治(夜にはだれもいなくなる難民キャンプ、早急な民主主義化はアフガンを潰す愚策 ほか)
  • 最悪の試練に―ともに生きつづけます

※ペシャワール会会員と協力者により撮影されたものです。

【本文を一部公開】

「生きておりなさい 病気はあとで治せるから」医者、井戸を掘る

医者の私がこんなことを言ってはいけないが、アフガニスタンの現実は病気どころではなくなっていた。
病気はあとで治せるから、まず生きておりなさい。
何よりも水だ、水。
水を何とかしないと、本当にみんな死んでしまう。
2000年9月、私は1カ月ぶりにダラエ・ヌールを訪ね、「飲料水確保」を今後どうするか、立て直しを図っていた。
干ばつによる赤痢の大流行を目の当たりにし、問題の大きさに驚き、ダラエ・ヌールを皮切りに「水計画」がスタートしたのは2カ月前の7月1日のことでした。
私たちの行動の火付け役は不思議なことにいつもダラエ・ヌールです。
1992年のアフガニスタン国内への診療所建設、1993年がマラリア大流行に対する活動で、そして今回が干ばつ対策です。

※ペシャワール会会員と協力者により撮影されたものです。

ペシャワール会のアフガン・プロジェクトは、常にダラエ・ヌールを起点としてきたと言えます。
7月初旬に開始された私たちの計画は、作業地では大成功でしたが、これは皮肉とも言える後継を生み出していました。
7月3日に井戸掘りがはじまり、同月末まで13カ所で飲料水が確保されたのです。
さらにこれだけでは不十分と見て、主としてアムラ村で19カ所のカレーズ(地下水路=横井戸)修復を行った結果、うち16カ所で水を出した。そのうち2つのカレーズは、飲料水のみならず、数ヘクタールの灌漑用水まで確保したのです。
あちこちの田畑に水が入ったのです。
下流のブリアライ村から望んだとき、アムラ村が砂漠に浮かぶオアシスのごとく姿を現した。
はじめ楽観視していた我々の作業地域以外の土地がほぼ壊滅し、危機的とみて私たちが早めに作業した所だけが生き残った。
もっとも、何もかもが順調に進んだわけではありません。
ダラエ・ヌール渓谷の中心、カラヒシャイ村の診療所付近が8月20日、一時的に反タリバンの北部同盟マスード勢力の手に陥ちたこともあった。
8月22日、再びタリバン軍事勢力がこれを奪回して上流に押し返しましたが、以後争奪戦がくりかえされたのです。
そのため、村の住民は一時、難民化していかざるをえない。
しかし、人がいなくなってしまっては私たちはお手上げです。
せっかく水確保がうまくいき出したのに、なにがマスードだ、とんでもない奴だというのが正直な思いでした。
村民が残っていれば、なんとか打つ手はあった。
住民さえいれば、放ってはおかない。
残った村民たちは、もはや恐れという感情に蓋をしたかのように砲声の中、黙々と作業に励み、ポンプが水を吐き出すたびに、鍋やバケツを手にした女子供が水場に群がる。
その姿には痛々しさを通り越して、生きている人間の太古からの生々しい営みのようなものを見てとれる。
訳もなく悲しいけれど、みんなたくましく生きようとしていたのです。
(本文より一部抜粋、改変)

※ペシャワール会会員と協力者により撮影されたものです。

【著者紹介】
中村哲(なかむら てつ)
1946~2019。福岡市生まれ。九州大学医学部を卒業。
国内病院勤務のあと、1984年パキスタン北西辺境州の州都、ペシャワールに赴任。
以来、35年間にわたり、らい(ハンセン病)のコントロール計画を中心とする医療活動に従事。
難民のための医療チームを設立、また無医地区での無料診療活動をはじめ、基地病院と十カ所の診療所を中心に貧困層の診療に力を尽くした。
2000年のアフガン大干ばつには、水源確保と難民を食い止めるために井戸掘り事業を開始、また2001年には「アフガンいのちの基金」を起こし現地難民への食糧の無償配布をおこなった。
その後、PMS院長、ペシャワール会現地代表を務めた。
著書に『ペシャワールにて』、『アフガニスタンの診療所から』、『医者 井戸を掘る』など。

【書籍詳細】
書名:『ほんとうのアフガニスタン~18年間“闘う平和主義”をつらぬいてきた医師の現場報告~』
著者:中村 哲
発売:光文社
復刊日:2020年3月20日
定価:1,100円(税込み)※電子書籍

さばなび編集部

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