前回の陸軍編に引き続き、今回は空軍のご長寿兵器を紹介しましょう。空軍の戦闘機や攻撃機は銃器などに比べて技術革新が早いため、陸軍編で紹介したM2機関銃のように100年前に基本設計・・・というものはさすがにありません。
「自衛隊のご長寿装備」でもご紹介した「F-4ファントムII」は、航空自衛隊以外にもイラン空軍やトルコ空軍などでも運用されており、世界的に見ても立派なご長寿兵器。そのF-4を上回る古強者といえるのが旧ソ連が開発した「MiG-21」です。
F-4より3年早い1955年に原型機が初飛行したMiG-21は、最大速度こそマッハ2.1と同世代の西側の戦闘機に引けをとらない性能でしたが、航続距離が短く電子装置も西側の同世代機に比べれば貧弱でした。
ただ、単純な構造ゆえに故障は少なく、技術レベルの低い国でも運用が可能であったため旧東側諸国を中心に広く普及し、総生産機数はF-4(5,195機)のほぼ2倍の、1万機以上に達しています。
MiG-21は開発国のロシア空軍からは退役していますが、、キューバや北朝鮮のように経済的な理由で新型の戦闘機を導入できない国では依然としては主力。
また冷戦終結後、NATOに加盟したルーマニアは、予算不足でF-16などの西側諸国の戦闘機を入手できなかったため、イスラエルの協力を得て、電子装備を西側製のものに更新して運用を続けています。
ちなみにトルコ空軍のF-4ファントムIIも、イスラエルの協力により電子機器を更新して、一線級の能力を保っています。イスラエルはM4シャーマン戦車に105mm砲を搭載した、「スーパーシャーマン」を開発するなど、その魔改造能力に関しては定評がありますが、航空機の分野でもその能力をいかんなく発揮しています。
陸上自衛隊の主力汎用ヘリコプターである「UH-1」も、原型機の初飛行は1956年ですから、立派なご長寿兵器といえるでしょう。
UH-1は野戦運用を考慮したタフな設計と、軽量でありながら出力の大きいターボシャフト・エンジンを採用したことで、それまで負傷者の輸送などの補助的なものが多かったヘリコプターの任務の幅を、最前線への兵員の投入(ヘリボーン)や火力支援などに広げた機体です。
初期に生産された第一世代型の多くは退役していますが、ベトナムやベネズエラといった東南アジアや中南米諸国ではいまだに運用中。
またエンジンの換装や双発化、電子装置の更新の改良を加えたモデルは、アメリカ海兵隊をはじめとして数多く運用されており、先ごろ陸上自衛隊の次期汎用ヘリコプターとして、UH-1の双発型である「ベル412EP」をベースに富士重工業とベルが共同開発する「最新型のUH-1」が採用されることが決定しています。
F-4ファントムIIやUH-1を上回る空のご長寿兵器がアメリカ空軍の「B-52爆撃機」。
B-52はF-4やUH-1がまだ初飛行していない1955年に就役しており、今年はちょうど就役から60年目にあたります。
アメリカ空軍は超音速飛行が可能な「B-1B」と、高いステルス性を持つ「B-2」という2種類の爆撃機も運用しています。B-1Bに比べれば速度も低く、B-2のようなステルス性もないB-52ですが、兵装搭載量の大きさと信頼性の高さは現在でも高く評価されており、アメリカ空軍は2045年までB-52を運用する方針(!)を明らかにしています。
アメリカ空軍には、祖父、父親、息子の3代に渡ってB-52のクルーを務めた一族がいるという真偽の程は定かではない話もありますが、このままいくとその息子の子供を含めた、4代に渡ってクルーを務めた一族があるという話になることでしょう。
現在爆撃機を保有しているのはアメリカとロシア、中国だけですが、B-52のライバルであるロシアの「Tu-52」の初飛行は1952年、中国の「H-6」も原型機であるTu-16がやはり1952年に初飛行しています。両機とも現時点では退役の予定がありませんので、今後もB-52とご長寿ぶりを競っていくことになりそうです。
航空自衛隊で運用されている戦術輸送機「C-130」も1954年に初飛行しており、ご長寿兵器の資格は十分です。
C-130以前の戦術輸送機には旅客機を改造したものが多く、貨物の搭載量そのものは多くても、車輌や大型の貨物の積み下ろしが難しいという難点がありました。しかし、C-130は機体の後部に貨物室に直結する、スロープを兼ねた大型のドア(ランプドア)を設けたことで、車輌や大型貨物の積み下ろしが容易になっています。
ランプドア以外にも、太い胴体と高翼式主翼の組み合わせや、主輪を収容するバルジなど、C-130で採用されたアイデアは、その後に開発されたほとんどの戦術輸送機に採用されており、C-130は近代的戦術輸送機の元祖と言えるでしょう。
C-130のもうつの特徴は卓抜したSTOL(短距離離着陸)性能で、1963年にはアメリカ
海軍の空母「フォレスタル」から、カタパルトを使わずに発艦し、アレスティング・ワイヤを使わずに着艦するという離れ業を演じています。
現在はエンジンをパワーアップして、プロペラを4枚から6枚に増やすといった改良を加えたJ型が生産されていますが、基本的な設計はほとんど変わっていません。また航空自衛隊が運用しているH型などのモデルも、多くの国で使用されており、採用国は50か国以上に及びます。
ここまで紹介した機体は主要国、または多くの国で運用されているものですが、1国または少数の国で使われている機体の中には、これらを上回るご長寿兵器が存在します。
レバノン空軍はイギリス製のホーカー・ハンター戦闘機を運用していますが、ハンターが初飛行したのは1951年。
さすがに今現在戦闘機として運用しているのはレバノン空軍だけですが、アメリカの民間企業が保有する機体はアメリカ軍の訓練相手としてバリバリの現役を務めており、しばしば日本にも飛来しています。
そのハンターと中東などで戦ったMiG-15(1947年初飛行)も、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)空軍で使われています。
北朝鮮空軍のMiG-15が、今でも本当に飛べるのかを疑問視する声もありましたが、2014年12月に北朝鮮の最高指導者である金正恩氏がMiG-15(練習機型)を操縦する空軍の女性パイロットを視察した際の写真が公開されており、第一線の戦闘機であるかはともかく、現役であることは間違いないようです。
※本記事は過去記事の内容を基に校正しています (2017.11)
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