【連載】今日から使えるミリタリー雑学講座 ホントにすごい!10式戦車のヒミツ

※本記事は過去記事の内容を基に校正しています

写真は迷彩塗装前の状態
制式化から5年が経過し、アニメ『ガールズ&パンツァー』などにも登場したことなどもあって、認知度が高くなってきた10式戦車ですが、具体的にどこがスゴイのかご存じない人もいるのではないかと思います。
そこで今回は、「10式戦車のここがスゴイ!」という点を3つご紹介しましょう。

1 軽いのに防御力が高い
アメリカ陸軍のM1エイブラムス、ドイツ陸軍などで運用されているレオパルト2といった先進諸国の、いわゆる第3世代戦車の重量は軒並み60t以上に達しています。最初に登場した時の重量は約45~50t程度だったのですが、防御力強化の増加装甲の装着や電子機器の増加などによって、その重量は増加の一途をたどってきました。陸上自衛隊の90式戦車は、戦後第3世代戦車の中では最も軽い部類に入りますが、それでも50tに達しています。
これに対し10式戦車の重量はM1A2などに比べて約15t、90式戦車と比べても約6tも軽い、44tに抑えられています
一般的に戦車は装甲が厚いほど重くなります。その理屈をそのまま適用すれば10式戦車はM1やレオパルト2はもちろん、90式戦車よりも防御力が低いことになりますが、10式戦車の防御力は、90式戦車を凌ぐともいわれています。

その秘密はモジュラー装甲と呼ばれる、新しい概念の装甲にあります。

通常の状態の10式戦車の砲塔の装甲は、砲塔前面がセラミックなどの強度の高い素材を組み合わせた複合装甲、側面は外側と内側の装甲との間に一定の空間を設けることで、命中した砲弾の破片や命中時の衝撃を吸収する空間装甲になっています。ちなみにこの空間部分は、普段は工具などを収容するスペースとして使われています。

多くの戦車は防御力を強化する場合、装甲の上に別の装甲、すなわち増加装甲を装着しますが、10式戦車の場合は砲塔前部と側面の装甲が、交換可能なモジュール構造となっており、状況に応じて内部により防御力の高い装甲に交換することが可能。防御力を大幅に強化することができます。
また、モジュラー装甲はダメージを受けても新しい装甲モジュールに交換することで、工場に輸送して修理する手間を省くことが可能。より防御力の高い素材が開発されて交換する場合にも、一旦車体を切断してその素材を封入しなくて済むといったメリットもあります。

2 スラローム走行中でも百発百中
一昔前のアニメやマンガでは、戦車が走行しながら主砲を発射して、敵戦車を葬り去るという描写がありましたが、走行する戦車は振動が大きく、止まっている相手ならばまだしも、動く相手に対して正確に照準を合わせて砲を発射し、その砲弾を命中させることは容易ではありません。
10式戦車には一度照準を合わせたら、走行中も目標を自動的に追尾する装置を備えており、走行中でも正確な射撃を行うことができます。

90式戦車の自動追尾装置は、走行中の攻撃は前進時などに限られていましたが、10式戦車は前進時はもちろん後進時、さらにはスラローム走行中の射撃も可能となっています。
2013年に開催されたニコニコ超会議2で、10式戦車の開発者が「スラローム射撃中でも命中率は百発百中に近い」と語っています。
もちろんこれはテスト時の話ですが、いずれにせよ10式戦車の目標自動追尾装置が、他の戦車よりも高いレベルにあるのは確かでしょう。

3 敵と味方の状況が手にとるように分かる
10式戦車にはネットワークを介して敵と味方の情報を共有することで同士撃ちを避けたり、別の10式戦車が照準した目標情報を使って攻撃する能力を備えています。

この種のシステムは現在ではそれほど珍しいものではありませんが、10式戦車には、センサーが捉えた敵が何物であるかを自動的に識別し、その情報を共有する能力もあります。同じエリアの中に複数の目標が存在していた場合、戦車や装甲戦闘車といった、より脅威度の高い目標を優先して排除すれば、その分だけ生存性が高まるのです。

また、個々の戦車の車長が攻撃目標を定めても、小隊長がより脅威度の高い目標の攻撃を優先する必要があると判断した場合は、小隊長の搭乗する10式戦車が定めた目標に向けて、強制的に別の10式戦車の主砲を向けて攻撃することもできます。

陸上自衛隊は10式戦車と他の戦車や装甲車、ヘリコプターなどとも情報の共有を可能にする、基幹連隊指揮統制システムを開発していますが、残念ながらこのシステムは送受信速度の遅さなどから、現場での評判はあまり芳しくありません。
10式戦車の持つ高度なセンサーを、他の車輌や航空機などが活用できるネットワークシステムの開発が望まれるところです。

10式戦車は順調に部隊への配備が進んでいて、近年では陸上自衛隊の駐屯地祭で目にする機会が増えています。

ただ、2013年12月に制定された防衛大綱で、将来的に陸上自衛隊の戦車は北海道と九州に集約し、本州には新たに開発された機動戦闘車が配備される方針が明らかにされています。

本州から戦車が姿を消すのは、まだ先の話ですが、北海道と九州以外にお住まいの人は、機会があれば早めに10式戦車の実物を見ておくことをおススメします。

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竹内 修

ライターから不動産シンクタンクを経て、ミリタリー業界に迷いこんできた
自称軍事評論家。サバゲーは長期休業中だが、運動不足解消を兼ねてまた始めよ
うかなと思案する今日このごろ。L85とかF2000のような、ちょっとクセのある銃
が好き。

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