【連載】今日から使えるミリタリー雑学講座~第29回 最新鋭駆逐艦・ズムウォルト級が要チェックなワケ

間もなくスターウォーズの最新作「フォースの覚醒」が公開されますが、来年2016年にはスターウォーズと並ぶSF映画の人気シリーズ・スタートレックの最新作も公開されるようです。
現在製作されているスタートレックシリーズの映画は、日本では「宇宙大作戦」のタイトルでTV放映された、ドラマシリーズ第1作のリメイクで、クリス・パインが演じる「エンタープライズ」の艦長、ジェームズ・T・カークが主人公を務めています。

カーク艦長(船長)は最も有名なフィクション上の(軍艦の)艦長ですが、実はアメリカ海軍にも(ミドルネームこそ違うものの)同姓同名の海軍大佐が在籍しており、このほどそのカーク大佐が艦長を務める、アメリカ海軍の最新鋭駆逐艦「ズムウォルト」が、海上公試(実際に海へ出て性能を確認するための最終テスト)に出発しました。
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「ズムウォルト」は駆逐艦に分類されていますが、満載排水量は約15,000tに達する巨艦。これはアニメ「艦これ」の主人公を務めた「吹雪」のモチーフとなった、旧日本海軍の特型駆逐艦「吹雪」の満載排水量の7倍強にあたります。

「ズムウォルト」はレーダーに対するステルス性能を高めるため、吃水から上の舷側部分が内側に傾斜したタンブル・ホームと呼ばれる、特異な船体形状を採用しています。
また、艦橋など上部構造物のデザインも、レーダーに対するステルス性能を追求した形状となっていて、これにより全長140mを超える巨艦でありながら、レーダーには小型の漁船程度にしか映らないといわれています。
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上部構造物の後部はヘリコプター格納庫が設けられ、後部がヘリコプター発着甲板になっています。時点ではSH-60BまたはMH-60Rヘリコプター2機の搭載が予定されていますが、将来的には無人ヘリコプターのMQ-8を3機搭載する計画もあるようです。

レーダーはイージス艦と同じXバンドを用いるAN/SPY-3を装備しており、広域捜索・索敵能力はイージス艦を上回るとも。
当初はイージス艦と同様、中距離艦対空ミサイルのスタンダードSM-2/3ミサイルの搭載も計画されており、弾道ミサイル防衛での活躍も期待されていました。 しかし、開発・製造コストを抑えるためにスタンダードミサイル運用能力の付与は見送られ、海上自衛隊のあきづき型護衛艦などと同じ、短距離艦対空ミサイルの発展型シースパロー「ESSM」(Evolved Sea Sparrow Missile)が搭載されています。
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対空攻撃能力は低く抑えられてしまった「ズムウォルト」ですが、対地攻撃能力は強力です。
というのも、トマホーク巡航ミサイルだけでなく、前甲板には通常砲弾以外に最大射程が137km以上に達する長距離対地攻撃砲弾LRLAP(Long Range Land Attack Projectile)の発射も可能な「先進砲システムAGS(Advance Gun System)」と呼ばれる62口径155㎜砲が2門搭載されているためです。
AGSは艦体と同様、レーダーに対するステルス性能を考慮しており、通常は砲身が砲塔内に格納されますが、将来的にレールガンに換装される計画もあります。
レールガンは大きな電力を必要とする兵器ですが、ズムウォルトはガスタービン発電機による統合電機推進システムIPS(Integrated Power System)が生んだ電力を使い、電動機でスクリュー・プロペラを駆動する推進方式を採用しています。このため、来型の水上戦闘艦に比べて発電力が大きく、大きな電力を必要とするレールガンの搭載にも十分対応できると考えられています。

ズムウォルト級は当初32隻の建造が予定されていましたが、さまざまな新機軸を盛り込んだことから、最終的に建造数は3隻にまで削減されてしまいました。
1番艦である「ズムウォルト」は、レイテ沖海戦にも参加した経験を持つアメリカ海軍の第19代作戦部長、エルモ・ズムウォルト・ジュニア大将に由来していますが、2番艦の艦名はイラクで仲間を守るため、投げ込まれた敵の手榴弾に覆い被さり命を落としたSEALs隊員のマイケル・モンスーア氏、3番艦の艦名はアメリカ合衆国第36代大統領、リンドン・ジョンソン氏にそれぞれ由来します。

そんな1番艦「ズムウォルト」の公試は12月14日現在順調に進んでおり、12月13日にはメイン州の沿岸で遭難した漁師を救助するという初手柄も立てています。
「宇宙大作戦」のカーク艦長は作品の中で多くの人命を救っていますが、「ズムウォルト」のカーク艦長もまた、適切な判断を下せる人物のようです。
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アメリカ海軍は現在運用しているニミッツ級の後継として、ジェラルド・R・フォード級原子力空母の整備を進めており、その3番艦は2012年に退役した世界初の原子力空母「エンタープライズ」の名を受け継ぐことが決定しています。
こうなると「エンタープライズ」の艦長にカーク大佐を!と期待してしまいますが、アメリカ海軍の空母の艦長に就任するにはパイロットの経験が必要。パイロットでないカーク大佐には空母の艦長になる資格がありませんし、「エンタープライズ」の就役が予定されている2018年には、将官に昇進しているか退役しているはず・・・。
残念ながら『カーク艦長が指揮を執るエンタープライズ』は、映画に期待するしかなさそうです。

※写真出典:U.S.NAVY

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竹内 修

ライターから不動産シンクタンクを経て、ミリタリー業界に迷いこんできた
自称軍事評論家。サバゲーは長期休業中だが、運動不足解消を兼ねてまた始めよ
うかなと思案する今日このごろ。L85とかF2000のような、ちょっとクセのある銃
が好き。

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