前回は「航空機搭載型レーザー兵器」の現状についてお話しましたが、今回は艦船搭載型と地上発射型レーザー兵器を紹介したいと思います。
現在開発が進められているレーザー兵器の中で最も実用化に近づいているのが、アメリカ海軍の艦船搭載用のLaWS(Laser Weapon System)でしょう。
LaWSの出力は前回のAL-1の150kwに対して30kw。一撃で目標を撃破できるだけの威力はなく、射程も約1.6km。ミサイルに比べて短く、遠距離の目標には対処できません。
というのも、アメリカ海軍はLaWSを、現在水上戦闘艦艇に搭載している自衛用対空兵器のファランクス20mmCIWSに代わる近接防空用の対空兵器と位置づけているため。スタンダード、シー・スパローの両対空ミサイルや防空にあたる戦闘機で迎撃できなかった「無人航空機や対艦・巡航ミサイルなどの電気回路」などをレーザーで加熱して焼き切ることで、コントロール不能にすることを目標としています。
アメリカ海軍は2013年に、ドック型揚陸艦「ポンス」にLawsを搭載して洋上試験を行っていますが、ドローン(標的機)に対してレーザーを照射し、センサーを無力化してコントロール不能にすることに成功しています。
LaWSはファランクス20mmCIWSに比べてシステムが小さく、小型の艦艇にも搭載することが可能。また発射コストが1発あたり100円程度と、機関砲弾に比べて大幅に安いことも魅力になっています。
トレントン級ドック型揚陸艦ポンス(LPD-15) 画像はアメリカ海軍のwebより
「ポンス」は2014年7月にLaWSを搭載したまま作戦航海に出発し、ペルシャ湾に展開していましたが、同年12月にアメリカ海軍技術本部は、LaWSの実戦使用を承認しています。アメリカ海軍は2020年を目処に水上戦闘艦のファランクスCIWSをLaWSに更新する計画に沿って開発を進めています。
地上発射型レーザーは複数の国で開発が進められており、ドイツは政府主導でHEL(高出力レーザー)兵器を開発しています。
2015年2月にUAEで開催された兵器展示会「IDEX2015」では、ドイツのラインメタル・ディフェンスが開発した装輪装甲車「ボクサー」に搭載された出力20kwのHEL照射装置が展示されました。
20kw級のHEL照射装置を搭載した「ボクサー」 (著者撮影)
このイベントでは出力50kwのHEL照射装置も展示。
ラインメタル・ディフェンスの出力50kw級のHEL照射装置 (著者撮影)
6月にイギリスで開催された兵器・セキュリティ装備展示会「DSEI」では、出力10または20kwのHEK発射装置を3本たばねたHELの発射装置が展示されています。
2013年にスイスで行われた試験では、複数のUAV(無人航空機)や火砲、モルタル製の構造物の破壊に成功しており、ラインメタル・ディフェンスと共にHELの開発にあたっているMBDAによれば、出力10kwのレーザーを使って小型のドローンを無力化するまでに要する照射時間は3秒に過ぎないとのことです。
地上発射型のHELは2018年にドイツ連邦軍に採用されるという報道もあり、またラインメタル・ディフェンスは、艦艇に搭載する出力100kw級のHEL発射装置を開発する計画も進めています。
ドイツ以外ではイスラエルのラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムも、HEL照射装置「アイアンビーム」の開発を進めており、早ければ今年中にも配備が開始されると見られています。
アイアンビームの実大模型 (著者撮影)
アイアンビームはミサイルやロケット弾などの迎撃を目的としたHEL照射装置で出力は10kw、最大射程は7km程度と推測されています。10月に韓国のソウルで開催された航空ショー兼兵器見本市の「ADEX2015」で担当者から聞いた話によれば、小型のドローンやロケット弾を撃墜するのに要する照射時間は約4~5秒だそうです。
このほかアメリカではロッキード・マーティンが光ファイバーを使ってレーザーを増幅させる出力30kw級のファイバー・レーザー照射装置「ATHENA」の開発中。
ジェネラル・アトミクスも出力150kw級のレーザー照射装置を開発し、既に試験を開始しているようです。
アメリカ以外でもイギリス、中国などがレーザー兵器の開発を進めているなど、レーザー兵器が主要装備に含まれる日も近いかもしれません。
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