【連載】今日から使えるミリタリー雑学講座~第26回 「大和」vs「あしがら」対決シミュレート!

12月4日から来年の1月3日まで、広島県呉市の蔵元通りで、光のモニュメントによって通りを彩る「イルミネーションロードくれ」が開催されます。
こうしたイルミネーションを使ったイベントは全国各地で開催されており、特段珍しくないのですが、「イルミネーションくれ」は造船の街であり、また旧海軍と海上自衛隊が拠点を置く街でもある呉市だけあって、戦艦「大和」を1/20スケールで再現するモニュメントを目玉の一つとしています。
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戦後70年が経過した現在も、「大和」がこうしたイベントや数々の創作のテーマとなるのは、旧海軍を象徴するフネであったからにほかなりません。
では旧海軍の伝統を受け継ぐ海上自衛隊を象徴するのはどのフネなのでしょうか?

現時点で海上自衛隊史上、最大の護衛艦である「いずも型」もその候補の一つだと思いますが、艦固有の兵装が強力であり、また国内外に与えるプレゼンス(存在感)の大きさなどの面から見て、旧海軍の「大和」に相当する象徴となるフネは、こんごう型、あたご型の両タイプのイージス護衛艦ではないかと私は思います。
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※こんごう型護衛艦の四番艦DDG-176「ちょうかい」

旧海軍の象徴である「大和」と、海上自衛隊の象徴であるイージス艦はどっちが強いのか・・・そんな想像をした人もいるかと思います。この連載でも、第二次世界大戦中にドイツが産んだ最強の戦車であるティーガーⅠと、大戦後にドイツが開発し、戦後第3世代戦車のスタンダードとなったレオパルト2が戦った場合をシミュレートしましたが、今回はその第2弾として、戦艦「大和」と、現時点で最も新しい海上自衛隊のイージス護衛艦「あしがら(DDG-178)」が戦ったらどうなるかを考えてみたいと思います。

「あしがら」をはじめとするイージス艦の最大の特徴は、強力なレーダーと高度な戦闘システム、そしてスタンダード艦対空ミサイルを組み合わせた高い防空能力にありますが、「大和」を相手にする場合、この防空能力を活かす機会はほとんどありません。
「あしがら」が艦船を攻撃する場合、最も強力な武器となるのが90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)で、その最大射程は150~200km(推定)にも及びます。

一方、「大和」の最大の特徴である46cm砲の最大射程は42kmといわれており、「あしがら」が「大和」の46cm主砲の射程圏外から攻撃すれば、「大和」はなすすべもない・・・といいたいところですが、「あしがら」に搭載されている対水上目標用レーダーの探知距離は約40km。SSM-1Bを発射するために「大和」に接近すれば、46cm砲の射程に入ってしまいます。
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「あしがら」に限りませんが、現代の軍艦の装甲は弾薬庫などを除くと20~30mm程度でしかなく、もし46cm砲弾の直撃を受ければ「あたご」は轟沈する可能性が極めて高いのです。

もっとも「あしがら」にはSH-60J/Kヘリコプターの搭載が可能となっており、このレーダーで捕捉された位置情報を用いれば、46cm主砲の射程圏外から、搭載されている8発のSSM-1Bを使って攻撃することができます。
ただ、「大和」にも零式水上偵察機、零式水上観測機などが搭載されています。これらの水上機は砲弾の弾着観測を主任務としていますが、自衛用の機銃も装備しており、SH-60J/Jに空中戦を仕掛けて妨害することも可能。
SH-60J/Kは優れた哨戒ヘリコプターですが、零式水上偵察機や零式水上観測機に比べれば運動性は低く、また空対空戦闘用の兵装もないため、もし空中戦を仕掛けられたら撃墜されてしまう可能性が・・・。

SH-60J/Kが「大和」の艦載機の妨害をかいくぐり、搭載レーダーが補足した「大和」の情報を送ることができれば、「あしがら」は「大和」の主砲の射程圏外からSSM-1Bを発射することができます。
「あしがら」に搭載されている8発のSSM-1Bがすべて「大和」の艦上構造物に命中すれば、発生した火災などにより「大和」が大きなダメージを受けることは間違いありません。
ただ、「大和」は弾薬庫や機関部など艦の重要部分が360mmもの厚い装甲で覆われており、この部分に直撃しても大きなダメージを与えることはできないでしょう。
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SSM-1Bは艦上での再装填ができないので、これを撃ち尽くした後の「あしがら」には、主砲のMk.45Mod.4 62口径5インチ(12.7cm)砲で戦いを挑むことになります。
しかし、この砲には大和の重要部分にダメージを与えるだけの威力はありません。48※「あしがら」と同型艦「DDG-177 あたご」の62口径5インチ砲

「大和」には主砲のほか、接近してくる駆逐艦などを攻撃するための副砲として、元々は最上型重巡洋艦の主砲であった15.5cm三連装砲も搭載されています。「あしがら」にはこの徹甲弾に耐えるだけの防御力はなく、主砲による攻撃を仕掛けるためにうかつに接近すれば、副砲によって返り討ちにされてしまう可能性すらあります。

巡航ミサイルを搭載しているアメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦や、韓国海軍の世宗大王(セジョンデワン)級駆逐艦のようなイージス艦であれば、「大和」に対する戦い方とその結果も変わってくるかもしれませんが、少なくとも「あしがら」をはじめとする海上自衛隊のイージス護衛艦には、「大和」を撃沈することはおろか、戦闘不能に追い込むこともそう簡単ではないのではないかと考えられます。
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※DDG-178「あしがら」~画像は海上自衛隊公式webより

「大和」の就役した第二次世界大戦時と現代では、海戦の様相が大きく変わっているため、「大和」に苦戦を強いられる可能性が高いといっても「あしがら」の価値が下がるわけではなく、そもそもこの両艦が洋上で砲火を交えること事態ありえない話です。

しかし、現代技術の粋を集めたイージス護衛艦であっても容易に撃沈できないほどの力を持つがゆえに、「大和」とその姉妹艦「武蔵」は、後世に生きる我々のロマンをかきたてるフネといえるかもしれません。

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竹内 修

ライターから不動産シンクタンクを経て、ミリタリー業界に迷いこんできた
自称軍事評論家。サバゲーは長期休業中だが、運動不足解消を兼ねてまた始めよ
うかなと思案する今日このごろ。L85とかF2000のような、ちょっとクセのある銃
が好き。

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