前回は10月20~26日に韓国のソウルで開催された「ADEX2015」(Seoul International Aerospace and Defence Exhibition)で展示された航空機を紹介しましたが、今回は車輌や火砲などを紹介します。
このイベントでは毎回韓国軍が運用している戦車や装甲車輌が展示されますが、今回は会場の一角で走行デモも行われました。
走行デモンストレーションには、韓国陸軍の機甲師団および機械化歩兵師団に配備済み、または配備予定の主要な装甲車輌がすべて参加。中でも注目を集めていたのが、昨年秋に実戦配備されたばかりの新型戦車「K2」です。
K2の主砲は10式戦車やアメリカのM1エイブラムスなどと同じ120mm滑腔砲ですが、10式戦車やM1の装備する120mm滑腔砲が44口径(砲身長が口径の44倍)であるのに対し、K2の120mm滑腔砲は55口径。10式戦車やM1より砲身が1m以上長くなっています。砲は砲身が長くなるほど砲弾を加速する時間が長くできるので、同じ砲弾を発射しても運動エネルギーにより貫通力が大きくなります。
現在K2に搭載されている砲弾は10式戦車などと同様に対戦車戦闘用のAPFSDSと、軽装甲車輌や陣地などの攻撃にも使用できるHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)のみですが、AH-64D戦闘ヘリコプターなどにも搭載されている、ミリ波レーダーを内蔵した誘導砲弾の開発も進められています。
装甲は10式戦車やフランスのルクレールなどと同様、被弾した場合でもその部分のみ交換すれば戦闘に復帰できるモジュラー装甲が採用されています。
K2戦車の砲塔側面に装着された爆発反応装甲
車体の一部には砲弾が命中すると内包された火薬が爆発し、その爆発力によって砲弾の破片などを粉砕する爆発反応装甲も装着。K2は防御力の面でも高いレベルにあります。
10式戦車などと同様、車体を前後左右に傾けることができる油気圧サスペンションや砲弾の自動装填装置、さらにはK2同士はもちろん、K21歩兵戦闘車などとの情報共有が可能な戦闘情報共有システムも備えており、あらゆる面で世界でも屈指の高い能力を持つ戦車といえるでしょう。
ただ、予定していた国産エンジンとサスペンションの開発が難航を極め、第一次量産分にはドイツ製のエンジンとサスペンションを組み合わせた「ユーロ・パワーパック」の搭載を余儀なくされています。また、高い性能を要求した分だけ価格も高く、当初の予定よりも調達数を削減せざるを得なくなったという話もあり、その前途は必ずしも洋々たるものではないようです。
デモンストレーションにはK2以外にも、K2の相棒であるK21歩兵戦闘車や、現在の主力戦車であるK1A1戦車、さらには開発中の多連装自走ロケットランチャー「忠武」、軽装甲車のLTVなども参加しました。
デモンストレーションは単にコースを走行するだけでなく、コースの途中に仕掛けられた爆薬が爆発する中を走り抜けたり、車載機関銃(空砲)を撃ちまくりながら走行したりと、見学者を飽きさせない趣向が凝らされていました。
日本ではさまざまな事情であまり進んでいませんが、韓国では軍と兵器メーカー、大学などの研究機関による兵器技術の共同研究が盛んに行われており、とりわけドローンやロボットなどの分野に力を入れています。
今回のADEXには出展されていませんでしたが、2009年のADEXに展示された無人車輌(UGV)は、既に38度線の警備に用いられているようです。また今回のADEXでも、韓国の兵器メーカーであるロテムの開発した無人車輌など、様々な無人兵器が展示されていました。
ロテムが出展した将来無人戦闘車輌
現在の韓国はK9自走砲やF/A-50軽攻撃機といった国産兵器をトルコやフィリピンなどに輸出できるだけの力を持っていますが、兵器の国産化に着手した1970年代には装甲車輌や航空機などを開発する技術力はなく、まず小銃などの小火器の国産化に取り組みました。
K2自動小銃のカービンモデル「K2カービン」
自衛隊が使用している小火器の中には、9mmけん銃や5.56mm機関銃MINIMIなど、海外製品を国内でライセンス生産したものも少なくありませんが、韓国軍で使用されている小火器は特殊部隊など一部の例外を除いて、拳銃から12.7mm機関銃まで国産品で統一されています。
韓国軍の制式拳銃「K5」。口径は9mmで装弾数が少ないショートバレルの輸出用モデルも開発されている
韓国では国産兵器の性能要求が高くなりがちで、その要求に技術力が追いつかず、不具合が生じることもあります。ネットでは韓国兵器の欠陥を大げさに取り上げる向きも見受けられますが、その技術力は年々進歩しており、決して侮ることはできません。無人兵器などの分野では日本をリードしているともいえます。
韓国は日本から2~3時間と近く、費用も国内旅行とそれほど変わりはありません。「百聞は一見にしかず」という言葉もありますが、自衛隊の航空祭や基地祭は行き尽くしてしまったという方は足を伸ばして、ADEXを訪れてみてはいかがでしょうか。
※記事中の写真はすべて著者撮影
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