こんにちは、アヤベです。
先週に引き続いて、中東ネタをもう一丁まいりましょうか!
今回登場するK2曹は、通信関係のお仕事をしている空自隊員。出身は沖縄ですが、東北地方の「レーダーサイト」と呼ばれる小さな分屯基地で任務に就いています。
沖縄といえば、オリオンビールと泡盛で知られていますよね。ですがこのK2曹、東北で日本酒に目覚めてしまい、すっかり日本酒党に。「小さな徳利とお猪口じゃ間に合わない」と、ワイン用のデキャンタとグラスで、毎晩――夜勤の日以外は本当に毎晩、夜勤明けは朝から――日本酒を浴びていました。お米が好きな体質なのか、おにぎりやおせんべいを肴に、日本酒を呑むわ呑むわ。「俺は酒と結婚したんだ」と、酒を愛でること10年、もちろん独身。入隊当初は棒のようにガリガリだったのですが、その糖質フルな生活のせいで、30歳を過ぎたころには、じわりじわりと脂肪が蓄積され、たっぷりとした体つきになりました。ちなみに、あだ名は「親分」。
さて、この親分さん、「たまには、あったかいところで働いてみたいなあ」という、実に単純な理由で、海外派遣の希望を出してしまいました。レーダーサイトは、日本でもかなり田舎の地方に点在しています。20代をずっと東北の田舎で過ごした親分、お酒以外にもちょっと刺激がほしくなったのでしょうかね。体重がギリギリだったものの、まだ30代と若いせいで、血糖値はそれほど高くなく、身体検査をなんとかクリアし、希望通り海外派遣要員として抜擢されました。
中東地方に派遣される隊員は、派遣される時期が近づくと現地での慣習にならってヒゲを伸ばしはじめます。ヒゲをたくわえた親分の姿は、「スーパーマリオそっくり」なんて噂されていたそうですよ。
さて、生まれて初めての海外が、旅行ではなく派遣、しかも中東地方という、日本人にしては稀な経験をすることになった親分、現地にたどり着いてから大きな誤算をしていたことを知りました。実は、「お酒が呑めないなんて聞いていたけど、そんなのは建前で、行ってしまえばどこか飲めるところがあるに違いない」とたかをくくっていたのです。
――ええ、本当に呑めませんでした。基地内の売店にはビールくらい、公にはしていなくても、現地にだって「どぶろく」みたいなものがあるだろうと思っていたんですね。
久しぶりのあたたかい地方、とはいっても、出身の沖縄とは全く違う湿度と気温。しかも、大好きなお酒が本当に一滴も飲めない場所で任務に就く羽目になった親分。一週間ほどは現実を知ってかなり絶望していました。
今まで、余暇をほとんど酔っぱらって過ごしていた親分にとって、自由時間はとてつもなく長く感じられるもの。ふてくされて過ごすのも勿体ない、と、親分は同僚たちが麻雀を楽しんでいるのを見て、「麻雀でも覚えよう」と決意します。
続いて、入隊直後の教育隊で共に過ごした同期隊員と、異国の地で久しぶりの再会。時を同じくして違う任務で派遣されている同期は、当時と変わらないスマートな姿、しかもかわいい奥さまと子供がいるのを知った親分、さすがに少々ジェラシーが沸いてしまいました。そこで、生まれて初めてダイエットを決意。
今までと違う長くてシラフな自由時間を「麻雀」と「ダイエット」のふたつに絞った親分、他に誘惑がないものですから、四か月間、任務以外はみっちりとこのふたつに集中力を注ぎました。
四か月後、帰国して東北の分屯基地に戻った親分を出迎えた隊員たちは、目を疑いました。そこには、着ぐるみを一枚脱いだくらいにすっかり痩せた親分の姿が! パンパンだった作業服はブカブカで、端正なのにだらしなく見えるという奇妙ないでたちだったのです。
「もし、あの場にwifiの環境が完備されていて、今みたいに自由にスマホが使えたら、ダラダラとゲームやネットをして過ごしていたかも」と、懐かしそうに当時のことを語ってくれた親分が、現在どのようになっているかといいますと……アヤベには「ヒゲを剃ったスーパーマリオ」にしか見えなかったなあ!
四か月間の素晴らしい成果は、帰国後、速やかに日本の生活に再適応することでチャラになってしまったのでした。せっかく覚えた麻雀のほうなのですが、お酒を飲みながらプレイするので判断力がイマイチ、その後は上達していないそうです。
でも、一つだけ朗報が。親分、帰国直後の極めてスマートな時期に、覚えたての麻雀を通じて彼女ができました。それからずっとおつき合いを続けてきたそうで、来春ご結婚されるとのことですよ。
イラスト:モノ
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