海上自衛隊の観艦式も終わり、秋の自衛隊イベントもだんだん残り少なくなってきました。
10月24~25日には航空自衛隊の基地祭と陸上自衛隊の駐屯地祭が、全国11か所で開催されます。どこへ行こうか頭を痛めている方も少なくないのではないかと思います。
そんな陸上自衛隊の駐屯地祭では、戦車の体験搭乗が人気を集めますが、将来的に本州の駐屯地祭では、体験搭乗どころか戦車の姿を見ることすら難しくなるかもしれません。
政府は2013年の末、概ね10年後までを念頭に置き、中長期的な視点で日本の安全保障政策や防衛力の規模を定めた指針となる防衛大綱を定めました。
この大綱ではそれまでの防衛大綱で400輌だった定数(最大保有数)を300輌まで削減し、その戦車を北海道と九州に集中配備することが決まっています。
「戦車がなくなる本州と四国はどうなるんだ?」と、不安を感じますが心配はいりません。本州と四国には新たに開発された「機動戦闘車」が配備されるからです。
写真は著者撮影
機動戦闘車は島嶼部に対する侵略や、突発的に発生するゲリラ・コマンドによる攻撃といった事態に対処することを目的として開発された装甲車。
実は戦車をはじめとする装軌(キャタピラ)式装甲車は、通常自力で長距離を走行することはなく、長距離はトレーラーや鉄道に搭載して輸送されます。
このため、どうしても時間がかかるのですが、機動戦闘車は装輪(タイヤ)式なので高速道路や一般道路を使って、長距離を最大100㎞/hで自走することが可能。
装軌式装甲車に比べて小回りも利くため、市街地での運用にも適しています。
重量は10式戦車に比べて約19t、74式戦車に比べて約12t軽い26tで、航空自衛隊の新輸送機C-2で1輌を空輸することもできます。
機動戦闘車の主砲は、現時点で北海道以外のエリアに最も多く配備されている74式戦車と同じ105㎜ライフル砲。74式戦車で使用されている砲弾をすべて発射することができます。
射撃統制装置は10式戦車のものをベースに開発されており、防衛省が公開した動画ではスラローム走行をしながら射撃を行い、10式戦車と同様の高い目標追尾能力を持つと考えられます。
同じ砲であれば命中率が高ければ高いほど、攻撃力も高いということになるので、攻撃力に限れば、機動戦闘車は74式戦車を凌いでいるといっても良いでしょう。
装輪式装甲車や装軌式装甲車に比べて防御面では劣ります。機動戦闘車の防御力は明らかにされていませんが、機動戦闘車と同様に大口径(76mm)砲を搭載した装輪式の戦闘車輌であるイタリアの「チェンタウロ」の防御力は、車体前面が20mm機関砲弾、側面が12.7mm機銃弾の直撃に耐える程度。機動戦闘車もそのレベルの防御力だと推測されています。
機動戦闘車の砲塔の形状は10式戦車とよく似ており、砲塔正面は10式戦車と同様の砲弾の威力を低減させる空間装甲になっているようです。
写真は著者撮影
10式戦車の空間装甲は必要に応じて防御力の高い装甲と交換できると見られており、機動戦闘車の空間装甲も同じ構造なのではないかと推測されます。
10式戦車には自分や味方の位置情報などを10式戦車同士で共有できるシステムを装備していますが、機動戦闘車に関してはこのシステムを装備するかどうか、現時点では決まっていないようです。
機動戦闘車の試作車の砲塔の上面にはGPSナビゲーション・システム用のアンテナがあり、また通信機用のアンテナも10式戦車と同じものが装備されていますから、車輌間情報共有システムを搭載できる余地はあるようです。
機動戦闘車は平成26年度から30年度までに99輌の調達が予定されており、8月末に発表された平成28年度予算の概算要求では、36輌の調達費として259億円が計上されています。単純換算すれば1輌あたりの調達費は約7億円で、10式戦車や90式戦車に比べれば2~3億円ほど安いということになります。
冒頭でも述べたように、将来的に機動戦闘車は本州と四国エリア全域に配備される予定ですが、まず高い展開能力を持つ即応機動連隊から配備されます。
即応機動連隊はヘリコプターや空挺降下によって迫撃砲を主要な武器する隊員を投入し、それで対処できない場合は機動戦闘車や装輪式装甲車を主力とする中核部隊が出動するという運用方法が構想されており、機動戦闘車はこの部隊の火力の中核となります。
即応機動連隊は第2師団(旭川)、第5旅団(帯広)、第11旅団(札幌)、第6師団(山形)、第12旅団(群馬県榛東村)、第14旅団(善通寺)、第8師団(熊本)の隷下に編成される予定。
現時点ではどの師団・旅団から、即応機動連隊の編成が開始されるのかは明らかにされていませんが、平成30年度までに第6および第8師団、第11および第14旅団に編成されるとの情報もあります。
これらの師団および旅団が駐屯する駐屯地祭では、そう遠くない時期に機動戦闘車を目にすることができるのではないでしょうか。
※特記のない画像はyoutube陸上自衛隊広報チャンネルより
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