こんにちは、アヤベです。
涼しくなってきましたね。野外のフィールドが心地いい季節です。
人は誰でも、なにかしら趣味や特技を持っているもの。さばなびの読者の皆さまなら、もちろんサバゲが趣味ですよね! 生きがいになってる方もいらっしゃるのでは?
アヤベは、日本舞踊が趣味です。隊員時代の経験とは全く関係なさそうだと思うでしょう? でもね、踊りの師匠によると「周りと動きをピタリと合わせる」ことが得意なのだそう。「無意識で等間隔に並ぼうとしている」ところも褒められました。行進や教練、自衛隊体操で訓練したことが、まさかこんなところで役立つとは思ってもいませんでした。
もちろん現役隊員にも、それぞれいろんな趣味や特技があります。これまでも、「オタク男子」や「旅行マニア」、「ペット好き」など、いろんな隊員をご紹介してきましたよね。
今回の主人公は、プログラミングが特技かつ趣味のM曹長。通常なら、隊員はどんなに長くても10年以上同じ部署に所属することはないのですが、M曹長の能力は特殊。若いころ、技術関係の研究を行う部署に抜擢されたあとは、ずっとプログラム開発の任務に携わっていたという異色の隊員なのです。
仕事と趣味が完全に一致しているM曹長、日本語よりも各種プログラミング言語が母国語。残念なことに、コミュニケーション能力には若干―かなり―の難がありまして、プライベートでは意思疎通がやや難しいときも。
煙草はたしなみますが、お酒は一滴も飲まない。独身を貫いていて、入隊後はずっと営内で生活しています。リラックスタイムには何をしているのだろうかと、同じ部屋の隊員がこっそり観察したところ、パソコンのハードディスクを整理整頓する「デフラグ」画面を嬉しそうに鑑賞していたとのこと。
パソコン機材やプログラミングの書籍以外にはお金を使わないので、「相当貯金があるに違いない」なんて噂されていました。
そんなM曹長にも、定年が近づいてまいります。
自衛官の定年は50代半ば(階級によって差があります)と、民間よりも少し早目。肉体的にも精神的にもまだまだ現役なので、ほとんどの隊員が再就職をします。自衛隊では、定年が近い隊員が希望すれば、再就職したい地域の近傍基地に転勤して、就職活動がスムーズにできるようにするシステムがあるんですよ。
M曹長も、地元に近い九州の基地に、久しぶりの転勤をしました。
新しい職場で庶務的な仕事のアシスタントをするかたわら、休暇を使って再就職活動をしているM曹長、登庁時はほとんど、私物のパソコンに向かっています。(今でこそ、パソコンやメディアの取り扱いは厳重に管理されていますが、職場に私物パソコンの持込みができる時代もあったのです)
ある日のお昼休み。
昼食から戻ってきたM曹長は、庶務係の若手隊員数人が、なにかの図面を広げて難しい顔をしているのに気がつきました。
しばらく、彼らが見ている図面を遠目に眺めていたM曹長、自席に戻って突然、猛スピードでキーボードを叩きはじめます。その姿は、まるでピアノの演奏者のよう。
30分後。
M曹長はフロッピーディスク(懐かしいですね)を若手隊員に無言で突きだすと、また自席で自分の世界に入ってしまいました。
「これ、何ですか?」と聞くに聞けない若手隊員たちが、おそるおそるそのフロッピーディスクをパソコンに入れてみたところ…「数独解.exe」というプログラムファイルがひとつ。
実は、若手隊員たちが悩んでいた図面というのは、新聞に掲載されていたパズルゲームの「数独」。脳内がプログラミング言語でできているM曹長、遠目で数独を眺めてすぐに、そのルールを理解して、答えを算出するプログラムを作ってしまったのでした。
「M曹長の気持ちは嬉しいんだけど、パズルゲームというものは解く過程が楽しいもの、プログラムで答えがわかっちゃうのは面白くないんだけどな……」と、さらに複雑な思いを抱える若手隊員たち。「数独解.exe」のプログラムは、結局使われることがなかったのでありました。
M曹長は定年後、鉄道のシステムを取り扱う会社に再就職。得意のプログラミング脳を発揮して、鉄道の安全な運行に寄与しているに違いありません。でも、パズルの答えを教えるプログラムを作っちゃだめですよ!
イラスト:モノ
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