10月1日から、映画『ドローン・オブ・ウォー』が公開されます。
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対テロ戦に従事するドローン(無人航空機)のパイロットの姿を描いたこの映画は、現代の戦争の姿をリアルに描いており、評論家などからの評価も上々のようです。
この映画でイーサン・ホークが演じる主人公、トミー・イーガン少佐が操縦するドローンのMQ-1「プレデター」は、現在のアメリカ軍にとってなくてはならない重要な航空機の1つとなっていますが、実のところアメリカ軍は当初、プレデターを試験的に導入はしたものの、その実用性を疑問視しており、大きな期待を寄せていませんでした。
しかし1995年のボスニア紛争でアメリカ空軍のF-16Cがセルビア人武装勢力によって撃墜されるという事件によって、アメリカ軍はドローンに対する考え方を大きく変えることになります。
撃墜されたF-16Cのパイロットは6日間に渡って敵地に潜伏し、最終的に無事救助されたのですが、救出作戦にはアメリカ空軍、海兵隊、NATO諸国軍から多数の航空機や兵員が投入され、莫大なコストを費してしまいました。
この事件を機にアメリカ空軍は、撃墜されてパイロットの生命が危険に晒される任務にドローンを投入する事を真剣に検討するようになり、試験中のプレデターをボスニア紛争に投入しました。
当時のプレデターは武装を持たない純粋な偵察機でしたが、レーザー誘導装置を追加して精密誘導爆弾を使用してみたところ想像以上に効果があり、それならばプレデターに対戦車ミサイルや精密誘導爆弾を搭載してみたらどうかという考え方が生まれたのです。
武装型プレデターが本格的に運用されるようになったのは、2001年9月11日に発生した同時多発テロ事件以降のことで、2002年の11月にはアルカイダの訓練基地が置かれていたイエメンで、当時アルカイダのナンバー3といわれていた幹部の攻撃に成功しています。
その後もプレデターと、より強力なエンジンを搭載して飛行性能を向上させた改良型のMQ-9「リーパー」は、アフガニスタンやイラク、リビアの内戦などにも投入され、リビアの内戦では逃走していた当時の最高指導者であるカダフィ大佐の乗る車輌を攻撃して、逃走を阻止するという成果もあげています。
2002年12月には、当時国連の決議により、イラク上空に設定されていた飛行禁止区域をパトロール中のプレデターが、決議に違反して飛行していたイラク空軍のMiG-25を発見。搭載していたスティンガー空対空ミサイルによって戦いを挑み、史上初のドローンと有人機による空中戦が発生しました。
ただ、最大速度マッハ2.8で飛行できるMiG-25に対して空中戦を挑むのは、流石に無理があったようで、MiG-25はスティンガーを回避して空対空ミサイルによってプレデターを撃墜しています。
プレデターをはじめとする攻撃型ドローンは、人間が搭乗していないため長時間のミッションが可能で、戦死者や捕虜を出す心配もないなど、運用者にとっては良いことずくめのように見えますが、やはり弱点は存在します。
遠隔操縦型ドローンのコントロールは電波を介して行われますが、ドローンが電波を受信できなければ操縦が不可能になります。アメリカ本土などからアフガニスタンなどの遠隔地でドローンを操縦する場合は、通信衛星を使って電波を中継するのですが、誘導用の電波が途切れたことで操縦不能になり、墜落するという事故が何件か発生しています。また、パイロットが五感を使って周辺の状況を認識できないため、有人機に比べて操縦ミスによる事故が多く、また誤った目標を攻撃しやすいともいわれています。
最近ではドローンパイロットの精神的な負担も大きな問題となっています。
元々が偵察機であるプレデターには、地上の精密な画像を収集するため高精度なカメラなどのセンサーが装備されています。このためプレデターのパイロットは戦闘機などのパイロットに比べて、目標となる人間の顔をはっきり認識せざるを得なくなるわけです。
東日本大震災の時、テレビ局のスイッチャー(カメラが捉えた画像を切り替える人)は、津波で流されていく人々の画像を明確に認識したことで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したという話がありますが、プレデターのパイロットの中にも人の命が失われていくその瞬間を、はっきりと目の当たりにしてしまったことで、PTSDを発症する事例が少なくないといわれています。
また、自宅から基地へと通勤してそこでプレデターを操縦し、勤務時間が終了したら帰宅するという勤務形態は、それまで最前線の基地へ展開し、一定期間任務に就いた後に本国の自宅に帰るという勤務形態に慣れてきた有人機のパイロットにとって、オンとオフとの切り替えが難しいようで、帰宅時に交通事故などを起こしてしまうというケースも少なからずあるようです。
さらに空軍の花形である戦闘機のパイロットには、プレデターのようなドローンのパイロットに配置転換されることを屈辱ととらえる傾向があり、それが原因でフラストレーションを抱えることも多いといわれています。
ネタバレになってしまいますので、ここでは詳しくは触れませんが、「ドローン・オブ・ウォー」の主人公であるイーガン少佐も、劇中でこれまで述べてきたドローンパイロット特有の精神的負担に苦しめられます。
攻撃型ドローンには、生命の危険がない場所から相手を一方的に攻撃する「卑怯な」兵器であるという批判の声も少なくありません。
しかしドローンのパイロットもまた傷ついており、いかなる戦争であっても、そこには一方的な勝者など存在しないということを「ドローン・オブ・ウォー」は訴えかけており、そこには単純な批判以上の重みがあるのではないかという気がしてなりません。
公式予告編
[youtube]https://youtu.be/4fGputLUYc4[/youtube]
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