こんにちは、アヤベです。
皆さんは、寮生活の経験はありますか? 経験者ならおわかりでしょうが、寮生活は、持ち物や行動など、面倒な制約があったりします。
自衛隊の寮は4人部屋が基本。でも、いろんな制約のなかで、それぞれが工夫しながら、それなりに楽しく暮らしているものです。アヤベも、特に苦にはなりませんでした。
ただ、どう頑張っても望めないこともあります。たとえば「ペットを飼う」なんてことは、どんな部隊でも無理なこと。
連載13でご紹介したように、警備犬がいる基地もありますが、警備犬は「装備品」ですし、「ハンドラー」と呼ばれる専門の隊員しかお世話ができません。それに、隊員であっても、安易に近づくと「敵」だと見なされますので危険な目に遭います。
新入隊員のD2士は、空手2段の大柄な体に似合わず、ちょっと繊細なところがある一人っ子。実家では猫3匹に犬1匹、文鳥2羽に亀まで飼っていたという、動物が大好きな心優しい青年です。
D2士が部隊に赴任した直後のこと。物心ついたときからずっと一緒に育ってきたワンちゃんが、老衰で亡くなってしまいました。ペットで忌引きは使えませんし、赴任直後の新人隊員は外出もままならないので、実家に帰ることもできません。D2士の落ち込みようは激しく、周りの隊員が声をかけるのもためらってしまうほどでした。
そんなとき、幹部自衛官なので基地外で暮らしているM2尉が、「買ったはいいけど、床がモノだらけで散らかっているから、あまり意味がなかった」と、新品同然のお掃除ロボットを営内居住者にプレゼントしました。
営内の隊員たちは、この珍しいおもちゃに大喜び。誰が名づけたのか「クーちゃん」と呼びはじめ、そのコミカルな動きを楽しんでいます。D2士も、久しぶりに笑顔を見せました。
ところがD2士、だんだん、不気味な言動が増えてくるのです。「食べやすいように」と細かく切ったエサ(ゴミ)を室内にわざと撒いて、クーちゃんがエサ(ゴミ)を食べる姿を微笑ましく眺めたり、クーちゃんの後をストーカーのようについて回ったり。仕事が終わって帰ってきたとき、クーちゃんがお掃除中で定位置にいないと、血相を変えて探し回るのです。
そんなD2士のことが心配になってきたのは、同室の先輩隊員、T3曹。ある晩、トイレに起きたときに、D2士が暗闇の中でクーちゃんを撫でながら座り込んでいる姿を見て、全身に鳥肌を立てました。
「これはまずい! D2士が違う世界に行ってしまう!」
T3曹はそれから、自宅で猫を飼っている上司に頼んで、家での宴会を計画したり、UFOキャッチャーで取った「カレーパンまん」のぬいぐるみを渡したり、猫の写真集を買ってあげたりと、D2士の関心をクーちゃんから逸らすために、かいがいしく世話を焼きました。
さすがに、「カレーパンまん」のぬいぐるみを渡されたD2士は、「馬鹿にしてるんですか!」と怒っていたそうなのですが、猫の写真集はまんざらでもなかったらしく、毎日写真を眺めては、にんまりしています。
ペットロスのあまり、お掃除ロボットに魂を奪われかけていたD2士、先輩の愛情で、なんとか現世に戻ってくることができました。それでも、クーちゃんが故障したときは「治してあげて」と、大事に抱えて電気屋さんに持って行ったとか。その姿を見ながら「ペットを飼っている彼女ができればいいのに」と、まだ心配しているT3曹なのですが、肝心のT3曹自身はといいますと……。う~ん、誰か、相性のいい女性はいないものでしょうかね? 面倒見のよさはピカイチなんだけどなあ。
寝食を共にする隊員同士は、家族も同然。同じ部屋であればなおさらです。先輩隊員は、後輩の身上にも気をつかっているのでありますよ。
イラスト:モノ
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