こんにちは、アヤベです。
官公庁で使われる器材や消耗品は、税金で購入するものです。自衛隊の物品も同じ。「物品番号」という番号で一元管理されている官給品、通称「官品(かんぴん)」なのであります。基地の中にあるものは、全てが「官品」か「私物」に分けられるんですよ。
官品と呼ばれるものの中でひとつ、物品番号のないものがあります。それは――人! それも、隊員本人のことではなく、隊員のご子息、ご令嬢のことを指します。もちろん、正式名称ではありませんよ。
自衛隊にはいろんな人が入隊するわけなのですが、「身内に自衛隊員がいる」という確率はけっこう高いです。「親が自衛官」という官品息子、官品娘も必ずいます。どんな職業でも、「身内にその仕事をしている人がいたから、安心感や親近感がある」という理由で志すことがありますよね。
アヤベが教育隊のときも、100名ほどの同期のうち、1割くらいは官品娘でした。同じ班だったHちゃんは、3人きょうだい全員が入隊! 今では「お母様以外は全員航空自衛官」という自衛隊一家です。末っ子のHちゃんと真ん中のお兄さんが同期入隊、一番上のお兄さんは一度就職したあと、Hちゃんよりも遅れて入隊したので、兄弟間の序列がちょっと複雑なことになってしまいました。
「高校3年生のときに、ちょうど父親が地方連絡所(現:地方本部)勤務で募集担当をしていた」という、親のノルマに協力させられた官品っ子もいます。
現在、航空管制官としてバリバリ任務をこなしている女性自衛官、M1曹は高校時代、「大学で国際関係の勉強をしたい」と夢見て受験勉強にいそしんでいました。そんな高校3年生の彼女に、「自衛隊の試験を受けたら5万円、合格して入隊するならさらに10万円あげる!」と、目の前で現金をちらつかせたのは、地連勤務をしていたお父様。買収まがいの募集はもちろん禁止されていますが、ここは家族間です。
高校3年生にとって、15万円の現金は大きいですよね。体力もそこそこあって、学力も申し分なかったM1曹は、目先のお金で心を売って、見事合格。その後、貰った15万円をさっさと使い果たしてしまい、正気に戻って大後悔します。「15万円を返して、すぐに辞めてやる!」と思っていたそうなのですが、もともと賢かったM1曹、数ある職種の中でも難関の、航空管制官の候補として抜擢されました。管制官には得意の英語も必須。管制官になるための勉強と訓練をしているうちに、やりがいを感じて、そのまま隊員生活を続行することになったのでした。
ちなみに、M1曹のお父様が買収行為にはしったのは、実はノルマのためではなく、「一人娘を東京の私立大学に行かせたくなかった」という親心だったのだそう。
こちらのM1曹、もうじきご結婚なさいます。新たな「官品」については「2人は欲しいな」とのこと。
あっ、みなさま、隊員のご子息ご令嬢とお付き合いしたり、結婚したりすることは「官品横領」にはあたりませんので、安心してくださいね。
イラスト:モノ
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