大ヒットアニメ『ガールズ&パンツァー』の劇場版が11月21日から公開されます。
それに先駆けて再放送が開始されていますが、それを見てこの作品を初めて知ったという人もいるでしょう。
本放送でこの作品にハマり、世界観をよく理解している人であれば「何をバカなことを」といわれてしまいそうですが、再放送で初めて視聴した人の中には「なぜ、どこのチームも現用ではなく第二次世界大戦時の古い戦車で戦っているんだろう?」と思ったかもしれません。
どこのチームも現用戦車を使わないのは、作品世界の「戦車道」では、試合に参加できる戦車を「1945年8月15日までに設計が完了し、試作されていた車輌」と規定しているためなのですが、もしこの規定が存在せず、どこかのチームが現用の戦車を投入した場合、果たしてその結果はどうなるのでしょうか?
本来なら主人公のあんこうチームが使用しているⅣ号戦車と、現用戦車の何かが戦ったら・・・というシチュエーションで考えてみるべきですが、Ⅳ号戦車は第二次世界大戦末期の時点で連合軍の投入した新型戦車に対して優位を保てなくなっており、現用戦車と戦わせるのは、ちょっと酷な気がします。
そこで第二次世界大戦に参戦した戦車の中で最強との誉れが高く、本作品でも主人公の姉、西住まほが搭乗するティーガーⅠと、第二次世界大戦後にドイツ(旧西ドイツ)が生んだ傑作戦車、レオパルト2A4が、1対1で戦ったらどうなるかを考察してみました。
ティーガーⅠの主砲は56口径88mm砲(KwK36 L/56)。39式徹甲弾を用いた場合、距離1,000mで厚さ140mmの装甲を撃ち抜く能力があったと伝えられています。この威力は当時としてはすさまじいものですが、レオパルト2A4の砲塔前面の防御力は、第二次世界大戦時の戦車で用いられた均質圧延装甲に換算した場合700mmの厚さに相当します。仮に39式徹甲弾が直撃してもダメージを受けることはまずありません。
レオパルト2A4に限らず陸上自衛隊の90式戦車など「戦後第3世代」に分類される戦車の多くは、砲塔や車体の前面にセラミックなどの耐久性の高い素材を組み合わせた「複合装甲」を使用しており、見かけ以上に高い防御力を備えています。ただ、敵の攻撃を装甲で受け止めるのではなく、高い機動力で回避するというコンセプトで開発されたレオパルト1などは、砲塔前面の装甲厚が140mm程度しかありませんので、ティーガーの88mm砲から発射された39式徹甲弾が直撃すれば、かなりのダメージを受ける可能性があります。
一方レオパルト2A4の搭載している44口径120mm滑腔砲L44がM33徹甲弾を用いた場合、距離2,000mで厚さ390mmの装甲を撃ち抜くといわれています。これに対してティーガーⅠの砲塔と車体前面の装甲の厚さは100mm。DM33が直撃すればティーガーⅠの装甲は簡単に貫通されてしまいます。
ティーガーⅠは当時としては優秀な射撃統制装置を搭載しており、戦後にイギリスが行なった試験では「1kmの距離から41×46cmの標的に向けて主砲を発射して5回連続で命中」という記録が残っています・・・が、レオパルト2などの第3世代戦車の命中精度はそれをさらに上回っており、1kmの距離から30×30cmの標的に対しての命中率は90%以上といわれています。
また、現用戦車の射撃統制装置にはレーザーを使った距離測定装置や、夜間や悪天候でも敵を発見できる暗視装置を備えていますので、煙幕を使って照準を妨害するという第二次世界大戦時に多用された方法も効果は期待できません。
ティーガーⅠがレオパルト2A4を撃破するには、比較的装甲の薄い車体の側面や後部などを攻撃するしかありませんが、ティーガーの路上最大速度が40km/hであるのに対して、レオパルト2A4の路上最大速度は72km/h。
走行しながら有利なポジションを確保するのは、ほぼ不可能といえるでしょう。
ただ、確立は低いものの、ティーガーにも勝機がないわけではありません。
もしレオパルト2A4と戦う場所に森などがあれば、そこにエンジンを切って潜むという手があります。レオパルト2A4の暗視装置は対象物の発する熱を感知する熱線映像式なので、ティーガーⅠが熱を発しなければ感知は不可能。森の中に辛抱強く潜み、相手の横腹や後部を照準に捉えたタイミングを逃さず88mm砲の命中弾を送り込むことができれば、さすがのレオパルト2A4といえども撃破は免れません。
「ガールズ&パンツァー」の作品中でも、能力差のある戦車と戦う場合、登場人物は知恵を絞っていますが、いかに能力差があっても戦術次第では勝つことも不可能ではないことが理解いただけたら幸いです。
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