こんにちは、アヤベです。
「自衛隊モノ」の映画やドラマを観ていると、ときどき「こんなこと、現実にはありえないなぁ」という設定があります。まあ、フィクションですから、そんなことは当たり前です。ドキュメンタリーじゃないのですから、細かいところにツッコミはじめると、ストーリーを楽しめませんものね。警察モノや医者モノ、学園モノだって、きっと同じ。
でも、一つだけ、現役、退役含めた全ての自衛官が「違う違う、それだけは絶対に違ーうッ!」と、叫びたくなるシチュエーション――正確にいうと、仕草――があるんです。
コスプレをしている人たちのスナップショットや、イラストなどでもよく見かけます。いちいち指摘するのも野暮なので黙っているけど、実はちょっぴりモヤモヤしていること――それは「脱帽時の敬礼」です。
敬礼は7種類ありまして、「自衛隊の礼式に関する訓令」の第7条で「敬礼は、各個の敬礼、隊の敬礼、警衛隊の敬礼、歩哨等の敬礼、自衛艦その他の船舶の敬礼及び旗の敬礼とする。」と定められています。
隊員が一般的によくやっている敬礼動作は、ざっくりと分けて、着帽時と脱帽時の2種類です。(本当は7種類あるのですが、今回は省略しますね)
みなさまが想像する「敬礼」とは、右手の肘をピシッと張って、腕が三角の形になっているものではありませんか? あれは、着帽時のみの「挙手の敬礼」です。帽子をかぶっていないときにあのスタイルの敬礼をすることは、絶対に、絶対に、絶対にありません!
では、脱帽時の敬礼はどういうものかというと「10度の敬礼」といいまして、気をつけの姿勢から、上体を腰から10度倒したスタイルが脱帽時の敬礼です。ちょっと、地味でしょ。
アヤベは以前、テレビのバラエティー番組で、制服姿で脱帽しているのに挙手の敬礼をしている現役隊員を見たことがあります。 「現役隊員なのに、何をやってるんだー!」と、とっても驚きました。どんな隊員でも、絶対にやらないことです。
でも、そのあとすぐに、多分あれは、テレビ局のスタッフさんに、どうしても「あのピシッとした方の敬礼」をやってくれといわれて、しぶしぶやらされたに違いない、と確信しました。きっと、本人も最初は「帽子をかぶっていないので、その敬礼はできないですよ」と抵抗したのに、演出上の都合で押し切られてしまったのでしょう。彼のモヤモヤを思うと、ちょっと切なくなってしまいました。
でもね、「10度の敬礼」だって、ちょっと地味だけど、ピシッとしているんですよ。それこそ、教育隊で、文字どおり何時間も練習した敬礼なんです。
最近のドラマや映画は、監修が入っていることが多いので、制服姿で脱帽している隊員が挙手の敬礼をしていることはほとんどありませんが、昔のものや、バラエティーのコントなどではよく見かけます。隊員はそのたび、「それ、違うんだけどな……」と、モヤモヤしているものなのです。
隊員は、民間の方々にも、挙手の敬礼をしてもらうことがよくあります。もちろん、親しみのこもったものですので、とても嬉しいことです! ありがとうございます! でもそこであえて、「10度の敬礼」をやってみせると、「おっ、こいつ、只者ではないな!」と思ってもらえるかもしれませんよ。
イラスト:モノ
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