こんにちは、アヤベです。
自衛官っていうと、どんな人を想像しますか? ――体育会系? それとも、肉食系?
これがね、けっこう皆、フツーの男女なんです。
皆さまが想像していらっしゃるよりも、自衛官になるハードルそのものは低いです。日本国籍を持っていて、五体満足であれば、誰でも入隊試験を受けることができます。試験の内容は、筆記と面接と身体検査。身体検査と言っても、体力測定ではありません。入隊試験で腕立て伏せや懸垂をやらされるわけではないので、入隊直後の各自の運動能力は様々です。
もちろん、10分立っているだけで倒れちゃうとか、割り箸を割れないほど握力がないとか、そういう人はいませんよ。そんな人たちは、そもそも入隊する気にならないでしょうからね。
隊員は、皆がガチムチの運動バカではなくて、見た目も性格も趣味も様々な、フツーの健康な若者たちなんです。
つまり、20万人を超える自衛隊員は社会の縮図。ということは、クラスに2、3人はいる、あのタイプ――オタク男子も当然います! オタクといっても、ミリタリーではなくてアニメのほう!
高校卒業後に入隊したS君は、とにかくアニメが大好き。観るだけではなくて絵を描くのも大好き。暇さえあればガンダムか女の子――それも、スクール水着を着た女の子――の絵を描いていました。
仕事が終わって居室(基地内の寮)に戻ったS君はいつも、パソコンでアニメのDVDを観るか、絵を描いています。無駄な時間は一分たりとも過ごしたくないので、お風呂にほとんど入らない、面倒なのでアイロンもかけない。寝るときには、スクール水着を着た等身大のアニメキャラがプリントされた私物の抱き枕にしがみついていました。
ある日のお昼時。メモ用紙を取り出してお絵描きに熱中しているS君に、先輩のY3曹が声をかけました。
「おい、S、飯食いにいくぞ」
その日は、いつものガンダムではなくて「マクロスフロンティア」のお絵描きに集中していたS君は全く聞こえていません。Y3曹がS君の頭を軽くはたくと――
――ぽふっ
S君の頭から、キノコの胞子かスギ花粉のようにフケが飛び散りました!
「ウワーッ!」潔癖なタイプのY3曹は大絶叫、椅子に座っていたS君を蹴り倒して手を洗いに飛び出していきました。
一部始終を見ていたのは班長のK曹長。K曹長は窓を開けて換気をした後「食堂でそのフケを撒くなよ――あぁそうだ、これで吸ってやろう」と、業務用の掃除機を持ってきて、S君の頭を吸いはじめました。そこは従順なS君、「よろしくお願いします」と、床の上でなすがまま。
そこへ、運悪く、隊長が入ってきてしまいました。上司に床に押し倒されて、掃除機を頭に押し付けられているS君の姿は、誰がどう見てもイジメ被害者です。
「いやあ、こいつが風呂に行かないもんだから……」
慌てたK曹長は言い訳をしましたが、隊長はわけがわかりません。さほど嫌がっているように見えないS君に直接尋ねます。
「お前、なんで風呂に行かないんだ?」
「いや、シャンプー切らしてて」
「シャンプーくらい買えばいいだろう」
「シャンプーを買う金があるなら、スクール水着の写真集を買います!」
床の上で堂々と言ってのけたS君、さすがに呆れた隊長から「シャンプーを買って風呂に入るまで外出禁止」を言い渡されてしまいました。
あまり清潔だとはいえないS君でしたが、仕事をサボってお絵描きをしているわけではなく、根は素直だったので、潔癖なY3曹以外には愛されていました。
S君はその後、惜しまれながら3年満期で退職し、満期金(退職金)をはたいて絵の専門学校に行きました。今は、大好きなアニメに直接携わっているわけではありませんが、印刷会社でデザインの仕事をしているそう。ちゃんとお風呂に入っているかどうかまでは、判明しませんでしたけどね。
目的を持って退職した隊員は、根性が座っています。体力もけっこうあるし、いい働き手になりますよ! 企業の人事担当者の方々、イキのいい元隊員をよろしくお願いいたします。
イラスト:モノ
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