こんにちは、アヤベです。
あまり知られていない事実なのですが、実は、PKOに参加したことのない自衛官はいません。もちろんアヤベも在職時はPKOに参加しました。嫌々やらされたことがほとんどですが、休日、趣味で自主的に行ったこともあるんですよ。
自主的にやったのはPです。自分の居室(基地内の寮)で行いましたが、Pのあとは心まで晴れやかになります。アヤベはPが大好きでした。
Kは月に1回――夏場は2回くらいやりました。Kには危険が伴います。飛んできた石が顔に当って怪我をしたこともあったっけな。
年末のOは必須だけど、たまにお偉いさんの視察があると、臨時のOがあってめんどくさいんですよね。
――何か、想像していたPKOと違いますか? そうですよね。ここでいうPKOとは
P→ポリッシャー
K→草刈り
O→大掃除
のことなのでした。
ポリッシャーは、あまり馴染みがないかもしれませんね。自衛隊は、学校のように床に雑巾がけをすることはありません。リノリウムにワックスを塗って、時々このポリッシャーという機械でピカピカに磨き上げるんです。うまくポリッシャーをかけると美しいスジができて気持ちがいいんですよ。
芝生の草刈りは、ガソリンを使った本格的な草刈り機で作業をします。草刈作業の前には、近くに止めてある車を移動させるよう、基地全域に通知が出ます。ワイヤーで弾き飛ばされた小石が車両に当るとガラスやボディに傷がつきますからね。もちろん作業員も危険ですから、軍手と防護メガネは欠かせません。
大掃除は、皆様が想像するよりも、もっと大掛かり。室内の机や棚を全部出してからっぽにして、床のワックスを剥離材で剥がしてきれいに塗りなおすのも大掃除の作業のひとつです。ワックスが乾くまで立ち入りできませんから、綿密な計画が必要です。
連載当初からしつこくお話していますが、自衛官には「品位を保つ義務」というものが自衛隊法第58条で定められていますから、散らかった職場や伸びすぎた芝生も、拡大解釈すれば法律違反です。
基地内の芝生は、それぞれの部隊が持ち場を分担して整えています。そのときの基地司令が細かいタイプで「芝の長さは2センチ以内にしろ!」なんて人だと、大変! 命令するほうは簡単かもしれませんけど、作業するのは現場の隊員です。
今回登場するのは、第二話「メタボ隊員を一掃せよ!」で上司であるO1曹の危機を救った、横着者のH士長。今回、彼は持ち前の横着さで失敗してしまいます。
H士長の部隊に割り当てられた草刈エリアは3ヵ所。2ヶ所は広くてやりやすいところなのですが、最後の1ヶ所は遠く離れたところにある、たたみ一畳分くらいの小さな一角。そこの草刈に行かされるのは、いつも下っ端のH士長。遠いし、面倒だなと思っていたH士長は、ある日の草刈が終わったあと、その一角に、こっそり除草剤を撒いてしまうんです!
除草剤の効果はもちろん素晴らしく、芝生はそこだけ黄色く枯れてしまいました。しかし、整然と刈り揃えられた基地内の芝生に、たった一角だけでも枯れたスペースがあるなんていう状態が許されるわけがありません。法律違反です!
芝の異常事態をめざとく見つけた基地司令は、「なぜか枯れてしまった芝生」を剥がして新しい芝を植える作業を命じました。もちろん、担当であるH士長の部隊が行わなければなりません。さすがに一人では作業できないので、H士長は上司――もちろん、ガチムチの鬼軍曹、O1曹です――と一緒に後始末をする羽目になったのでした。
実は、H士長がこっそり除草剤を撒いている現場を、偶然通りがかったアヤベ士長時代のアヤベは、この目で見てしまったのです。H士長に負けず劣らず横着者のアヤベは「ナイスアイデア! いつかわたしも、この手を使ってラクしようっと!」とワクワクしていたのですが、すぐに真似しなくてよかったです。
基地内をきれいに整えているのも、現場の隊員です。だからといって、みんな整理整頓が得意かというと――持って生まれた性分というものがありますので、職場はきちんとしていても、私物のロッカーの中はグチャグチャだったりすることも。つまり、オンオフの切り替えがはっきりしているということです。基地を訪れることがあったら、整頓モードがオンの状態の隊員が行った環境整備も見ていってくださいね。
イラスト:モノ
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