6月15日から22日までの一週間、フランスのパリ郊外のル・ブルジェ飛行場で、パリ航空ショーが開催されました。今回はその様子を紹介します。
日本でも自衛隊の基地祭やアメリカ軍の友好祭など、飛行機を間近で目にする機会はありますが、パリ航空ショーは単純に飛行機を展示するショーではなく、その主目的はあくまでビジネス。つまり商談の機会を設けることにあります。
私が初めてパリ航空ショーを訪れたのは2009年のこと。
会場に一歩足を踏み入れた瞬間、自衛隊の基地祭やアメリカ軍の友好祭とは違う「空気」を感じました。
日本で開催される航空祭や友好祭では、ほとんどの来場者がカジュアルな服装に身を包んでいますが、パリ航空ショーの会場ではTVクルーやカメラマンなどを除いて、スーツなどのフォーマルな服装に身を包んでいます。また、フルコースのランチを提供するレストランや、今回は出展していませんでしたがヘアサロンが店を開いていた事にも驚かされました。
2009年のパリ航空ショーの会場に出店していたヘアサロン
パリ航空ショーと隔年で開催されているイギリスのファンボロー航空ショーや、UAEのドバイやシンガポール、韓国のソウルなど商談を主目的とした航空ショーには、出展する企業がお客様を応接するための「シャレー」と呼ばれる建物が設けられています。一見プレハブ建築の事務所のようにしか見えませんが、内部にはお客様をもてなすためのバーカウンターといった施設もあります。
私は2009年のパリ航空ショーで、初めて某ヨーロッパ系企業のシャレーに足を踏み入れたのですが、バルコニーで展示飛行を行なう飛行機を眺めながら、昼間からシャンパンのグラスを傾けているスーツ姿の男性やドレス姿の女性の姿を目の当たりにして、なんか場違いなところに来てしまった(笑)と感じたものです。
もう一つ驚かされたのが、会場の広さ。日本で開催される航空イベントは自衛隊やアメリカ軍基地の一部を開放する形で行なわれていますが、パリ航空ショーはル・ブルジェ飛行場のほぼ全区画を使って開催されます。
このため会場内では移動のための電気自動車が運行されているほど。もっとも電気自動車を利用するのは、私を含めた一般の来場者だけで、大企業の社員やお客様は専用カート、さらに地位の高い、例えば各国の軍の幹部や政治家、大企業のトップといった方々は、黒塗りの高級車で会場内を移動します。このあたりは「階級」意識の強いヨーロッパならではと言えるでしょう。
会場内を走る電気自動車。列車を模しているあたりに遊び心が感じられる
今回で51回目となるパリ航空ショーですが、ヨーロッパでは冷戦終結後、各国とも国防費の削減に努めており、その影響で回を追うごとに軍用機の出展が少なくなっています。
地元フランスのダッソーが展示したラファール
欧米勢の戦闘機の出展は、地元フランスのダッソー・ラファールとミラージュ2000の他は、イタリアとイギリスの基地から飛来したアメリカ空軍のF-16とF-15という寂しいものでしたが、パキスタンからFC-1という珍客が参加し、来場者の注目を集めていました。
FC-1は元々、中国がMiG-21をコピーする形で開発したF-7戦闘機を改造した、スーパーF7として開発がスタートした機体です。中国はこの機体に欧米製の電子機器を搭載して自国で使用することを考えていましたが、1989年に起こった天安門事件に伴う制裁措置によって開発が頓挫。その後中国と密接な関係にあるパキスタンとの共同開発という形で仕切り直され、現在はパキスタン空軍に配備が進められています。
パキスタンが出展したFC-1。デモフライトでは軽快な飛行を披露した
基本的な設計はF-7、すなわちMiG-21を踏襲していますが、エンジンがMiG-29と同じロシア製のクリモフRD-93に変更されたほか、また操縦系統にも(一部ですが)デジタルフライ・バイ・ワイヤが採用されるなど、もはやMiG-21の面影すら感じさせない魔改造機。運動性の高さに定評のあるMiG-21に、より強力なMiG-29のエンジンを乗せたこともあって、デモフライトでは見事な飛びっぷりを披露していました。
ただF-35はもちろん、ラファールやユーロファイター・タイフーン、Su-35といった、欧米やロシアの戦闘機に比べれば、電子機器などが見劣りするため、先進諸国や中東産油国に売り込むのは難しいようですが、東南アジアやアフリカ諸国などからは少なからず引き合いがあるようです。
FC-1と共に来場者の注目を集めていた機体が、アメリカのテキストロン・エアランドが開発したジェット軽攻撃機「スコーピオン」でしょう。
スコーピオンは中南米諸国などで運用されている、A-37ドラゴンフライジェット攻撃機などの後継を狙って開発された軽攻撃機。この種の機体としては珍しく、大画面ディスプレイなどをコクピットに採用しているため、F-35やラファールといった、新型戦闘機のパイロットを養成するための、高等練習機としての需要も見込まれています。
テキストロン・エアランドが出展した軽攻撃機スコーピオン
スコーピオンはインドが大きな関心を寄せているようで、会場で親しくなったインド人ジャーナリストは、おそらくインド空軍が導入することになるだろうと語っていました。
また、パリ航空ショーに限った話ではありませんが、有人の軍用機に代わって主役となりつつあるのがUAVやドローン(無人航空機)です。
自衛隊が導入するグローバルホークのような大型機は、残念ながら今回のパリ航空ショーには姿を見せませんでしたが、イスラエル、イタリア、トルコ、エアバスグループなどが、さまざまなUAVを出展していました。
実機はありませんが、日本の富士重工もヘリコプター型UAVのコンセプトモデルを出展して、来場者の注目を集めていました。
富士重工が出展したヘリコプター型UAV「RPH-X」のコンセプトモデル
そういえば昨年のファンボロー航空ショーで、イスラエルのある企業のブースで、UAVに搭載する電子機器の写真を撮りまくっていたところ、黒スーツにサングラスという、UZIを隠し持っていそうな風貌のガードマンにとがめられてしまいました。
「お前は何人だ?」と聞くので「日本人」だと答えたところ、「どうぞお撮り下さい」と、それまでの居丈高な態度が一変。なぜそのような質問をしたのか訊ねたところ、苦笑しながら東アジアの某国(笑)からの来場者に撮影を許したら、翌年中身はともかく外見がそっくりな製品が、その国のメーカーから発表されたためだとのこと。このような出来事も、商談を主目的としたショーならではといえるでしょう。
イスラエルのエルビット・システムズが出展したUAV「ヘルメス900」
パリ航空ショーには、パイロットやエンジニアを目指す若い人に、最先端の技術や高い技術を持つ先輩に接する機会を、数多く設けているという特長もあります。
今回はエアバスの主催で、日本で初めて旅客機の女性機長となったJAL(日本航空)の藤明里さんと、将来パイロットや技術者を目指すフランスの若い女性との交流会が開催されました。
交流会を終えて記念撮影を行なう、JALの藤明里機長とパイロットやエンジニアを志望するフランスの少女たち。車椅子の女性は現役アクロバットパイロット
またエアバスはパリ航空ショーの年に、全世界の大学生から航空産業の革新的なアイデアを募集する「Fly Your Ideas」コンテストを開催しています。このコンテストは単に学生からアイデアを募集するだけでなく、エアバスのスタッフが学生をサポートして提案内容を精査・充実させていくというもので、今年のコンテストでは残念ながら優勝はできなかったものの、東京大学のチームが決勝に駒を進めています。
2016年10月には日本でも国際的な航空イベント「国際航空宇宙展」が開催されます。このイベントは商談を中心とするものになるようですが、パリ航空ショーのようにパイロットやエンジニアを目指す人に向けて、最先端の技術や高い技術を持つ先輩に接する機会を、ぜひ設けてもらいたいと思います。
※写真はすべて著者撮影
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