東京マルイが最初の電動ガンである「FA-MAS」を発売してから、間もなく四半世紀を迎えようとしています。
その独特のスタイルから「トランペット」とも呼ばれるフランス軍の制式小銃であるFA-MASには、M4や89式小銃とはまた違った魅力があるようで、東京マルイの電動ガンも何度か改良を重ねながら発売され続け、現在でも人気となっています。
FA-MASのデザインの大きな特徴といえるのが照準器を兼ねたキャリングハンドルですが、現在フランス陸軍で使用されているFA-MASの中には、キャリングハンドルを廃して、大型の光学照準装置を装着しているものが数多く見受けられます。
この光学照準装置は、単にFA-MASの射撃の精度を高めるためのものではなく、フランス陸軍の次世代歩兵用統合装備「FELIN」(Fantassin a Equipements et Liaisons Integres)のシステムの一部となっています。
2007年に東京で開催された防衛省技術研究本部のシンポジウムで、「ガンダムの実現に向けて」という展示が話題になったことを覚えている人も多いと思います。
そこで展示されたのは巨大なモビルスーツではなく、隊員が装着する個人用装備「先進個人装備システム」だったのですが、このシステムはFELINとかなりの部分が共通しています。
先進歩兵装備システムの研究はその後も続けられていますが、現時点では実用化の目処は立っていません。しかしフランス陸軍はいち早くFELINを実用化して、実戦部隊への配備を進めています。
IDEX2015でFELINのデモンストレーションを行なうフランス陸軍外人部隊の兵士
FELINはヘルメット装着型カメラとLEDディスプレイを装着した防弾ヘルメット、専用の光学照準装置を装着したFA-MASなどの小火器、「JIM MR」多機能双眼鏡、GPS機能を備えマイクと骨伝導式イヤホンが一体化したヘッドセット、「PR4G VS4」デジタル無線機、そして液晶ディスプレイを備えた小型端末などによって構成されています。
マイクと骨伝導式イヤホンを組み合わせたFELINの無線通話装置
各兵士のヘルメットやFA-MASに装着された光学照準装置、JIM MR双眼鏡、さらにはUAV(無人航空機)に搭載されたカメラなどが取得した画像は、部隊全体で共有することが可能。また、FA-MASに装着した光学照準装置が捉えた画像はヘルメットに装着された液晶ディスプレイと小型端末にも映し出されます。
このため物陰に隠れたまま照準・射撃を行うことも可能。サバゲーをやっている方々にとっては、夢のような話です(笑)。
大型の光学照準装置を装着したFELIN用のFA-MAS
私は2月末にUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビで開催された、世界最大規模の兵器展示会「IDEX2015」を取材したのですが、このIDEX2015ではフランス陸軍がFELINのデモンストレーションを行っていました。FELINには前々から興味を持っていたのですが、取材できるほどフランス語ができるわけでもなく、さてどうしたものかと思っていたところ、デモンストレーションを行なっていたアジア系のフランス軍兵士の方から「日本の方ですか?」と声をかけられました。
聞くと彼はフランス陸軍外人部隊に勤務する日本人。訓練のためUAEに派遣されたところ、会場でのデモンストレーションに駆り出されたとのこと。デモンストレーションを行った部隊には、もう1人日本人隊員がいて、彼らの好意でFELINを試着(?)させてもらうことになりました。
私が試着したのは、携帯端末や無線機などを稼動させるため、多くのバッテリーが内蔵されたジレ(ベスト)とFA-MAS、無線機と骨伝導型マイクとイヤホンだけだったのですが、とにかくその重いこと重いこと。
厳しい訓練を重ねている精鋭の外人部隊の兵士はともかく、私のような軟弱者(笑)は、一式を身に付けたら100mも走れないのではないかと感じるほどでした。
その感想を彼らに伝えたところ、「僕ら(外人部隊)は大丈夫ですけど、(外人部隊に比べて身体的能力が低い)普通の部隊の兵士は使いこなすの大変じゃないかと思います」とのこと・・・。
また、最初に手渡されたFA-MASと携帯端末がバッテリー切れのため起動しないというトラブルもありました。
バッテリーの問題はFELINに限らず、この種の先進歩兵装備システムを開発している国々にとって大きな悩みの1つのようで、ドイツ陸軍向けの先進歩兵装備システム、「フューチャーソルジャー」を開発しているラインメタル社の担当者も、実用化のため解決しなければならない課題だと語っていました。
ドイツのラインメタルが開発している先進歩兵装備システム「フューチャーソルジャー」のモックアップ
レバノンで平和維持活動中に電子装置の予備部品の供給が滞り、ほとんど活動できなくなってしまったルクレール戦車をはじめ、フランスの兵器には熟成されていない新たな技術を盛り込みすぎてトラブルが多いという批判もあります。
ただ、フランスは新たな技術を盛り込んだ装備を実戦配備して、部隊からの感想や要求などをフィードバックして改良を重ねていくという姿勢を貫いています。
FELINに関してもさまざまな問題を解決した改良型、さらには第2世代型の開発も進められていて、IDEX2015には第2世代型FELINに採用される改良型携帯端末などのモックアップも展示されていました。
第2世代型FELINのモックアップ。バッテリーの軽量化や携帯端末の画面の大型化などの改良が施されている
この姿勢を貫いていることが、超大国とはいえないフランスが、兵器開発の分野で常に世界の先端を走り続けていられる理由の1つなのかもしれません。
※FELINの写真はすべて著者撮影
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