というわけで、前回からエディ・マーフィーが切り開いたハリウッドのアクション・コメディーのビハインドな部分を鋭意解説中なのですが、やはりここは本筋でありメインの『ビバリーヒルズ・コップ』にフォーカスを当てなくてはなりません。
『おかしな関係』の撮影が終わったと同時に休みなくエディ・マーフィーは『ビバリーヒルズ・コップ』の撮影に入ります。
実はパラマウント・ピクチャーズはリチャード・ドナー監督、シルヴェスター・スタローン主演で『ビバリーヒルズ・コップ』のプリプロダクションを進めていました。
パラマウントはスタローン主演の『ナイトホークス』を観て出演オファーを決めましたが、ユニバーサル・ピクチャーズが製作したこの刑事アクションは、当時『ロッキー』シリーズで大人気のスタローンがアクション・シークエンスの演出で監督と衝突し、監督交代劇があったのです。
そのことをユニバーサルから聞いていたパラマウントでしたが「スタローンにコミカルな演技でアクションをさせたら世間がきっと驚くに違いない」との考えで熱望。しかし、ドナー監督が『レディホーク』(皮肉にも『ナイトホークス』でスタローンと共演していたルトガー・ハウワーが出演)のプロデュースと監督を兼任することで、20世紀フォックスとの契約を優先することになってしまい『ビバリーヒルズ・コップ』から降板。
さらにスタローンは「コメディ要素をなくし、シリアスな刑事アクションにしてほしいので手直しさせてくれ」と、脚本を大幅に書き直しました。
でき上がってきたタイトルは『コブラ』で、白人刑事アクセル・フォーリーがアクセル・コブレッティに変更されており、コメディ要素が皆無でパラマウントが望んでいた企画内容ではありませんでした。
内容は『ダーティハリー』そのままで、8割も書き直された超大作アクション・ムービーの様相であり、プロデューサーのドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーの2人が求めていたものとは大違いに・・・。結局、プロデューサーたちと揉めたスタローンには降板してもらい、監督も主演も一旦リセットしてゼロから再スタートを切ることになりました。
スタローンは脚本のリライトをタダで行なったことから(勝手に書き直しただけ?)その権利は自分自身のところにあるため、この脚本を元に『コブラ』の企画をワーナー・ブラザーズへ持ち込みました。
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パラマウントもスタローンのギャラを支払うだけで大変でしたが、降板してもらったことで予算の確保がある程度でき、シカゴとロサンゼルスの2都市でのロケが可能になりました。
とはいえ監督と主演はまだ決まっていないし予定の空いている監督が全く見つかりません。唯一、可能そうだったのがマーティン・ブレストでした。
ブレスト監督はプロデューサー陣の要求が面倒だったことでオファーを断っていましたが、最終的に諸々条件を飲み、演出担当を引き受けたそうです。
また、「コメディのあるアクション映画ではあるがクールな作品にしたいので何かよい策はないか」とパラマウントの役員だったドン・シンプソンが模索していたところ、『フラッシュダンス』の撮影現場で閃いたといいます。
それは『ロッキー3』で “アイ・オブ・ザ・タイガー” という主題歌が大成功したように、『ビバリーヒルズ・コップ』でも主題歌を作るしかない。今撮影中の『フラッシュダンス』と同じように!というもの。
このアイデアからやグレン・フライに劇中オープニング挿入歌 “ヒート・イズ・オン” を作らせ、作曲家ハロルド・フォルターメイヤーにシンセサイザーを中心にした劇判をオファーしました。
そして主役のアクセル・フォーリーにシンプソンはエディ・マーフィーの起用を試みました。『おかしな関係』の撮影現場へ足を運んで直接交渉するも、エディは『48時間』以降、お世話になっているパラマウントの重役が直々にオファーしてきたことから邪険にできなかったとか。
「提示されたギャラが安い代わりに1つだけ条件を飲んでほしい。自分がエディ・マーフィープロダクションを作って『ビバリーヒルズ・コップ』へ出資するので、それのロイヤリティー配分を貰いたい」と、突発的にビジネスマンっぷりを発揮。
シンプソンは豪気なプロデューサーなので「映画が大成功したらパラマウントと複数本契約してやるし、その条件も飲んでやるから、今の現場が終わったら休みなくすぐに『ビバリーヒルズ・コップ』へ切り替えろ」と、会社へ確認を取らず、その場での自分判断で決めてしまったそうな。
このように『ビバリーヒルズ・コップ』はパラマウントのドン・シンプソンと、ギリギリで主役に決まったエディ・マーフィーの2人が中心となって作られた極めて珍しいパターンであったのです。
次回はお待ちかね『ビバリーヒルズ・コップ』撮影時のウラ話をお送りします!
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