【連載】今日から使えるミリタリー雑学講座~第3回 自衛隊の89式小銃のヒミツ


2006年に発売されてから10年近くが経過した現在も、東京マルイの89式小銃の電動ガンは高い人気をキープし続けています。

東京マルイの89式小銃(カスタム)

みなさんの中にも、89式を「バディ(相棒)」としている方も多いのではないでしょうか。「バディ」という愛称は一般公募されたもので、部隊ではあまり使われていませんが、取材などで話を聞く限り、使用している自衛隊員の評価は高く、「いざ!」という時に自分の命を託すことができる、「バディ」として見なしているように感じられます。

89式小銃(防衛省webより)

その最大の理由は、89式が故障が少なく信頼性が高い点にあります。

アメリカ軍の制式自動小銃であるM16・M4カービンは、火薬の燃焼ガスをガス受けに吹き付けてピストンを直接動かす「リュングマン方式」を採用しています。

アメリカ軍のM16A4、M4カービン

リュングマン方式には銃が軽量化できるだけでなく、命中精度も高くなるという利点がありますが、その反面火薬の燃焼ガスが直接機関部に吹き込むため、故障が起こりやすいというデメリットもあります。

89式は発射の際に生じたガスでピストンを動かす、オーソドックスなガス圧作動方式を採用しているため、M16に比べて故障が起こりにくいといわれています。
訓練では実弾よりも空砲を使うことが多いのですが、実弾に比べて機関部に付着する汚れ(火薬カスなど)が増えます。

陸上自衛隊 初降下訓練にて撮影

89式は機関部のガスシリンダーの直径がAKシリーズ並みに太く掃除しやすくなっており、これも故障の少ない理由の一つといえるでしょう。

89式の先代に当たる64式小銃は動作不良が発生しやすい構造の上、部品点数が多いため掃除にも手間がかかっていました。
また、初期のモデルは当時の日本の工業力もあって部品の立てつけが悪く、部品の脱落が頻発していたそうです。このため針金やガムテープなどで部品を固定していたという話も伝えられています。

64式小銃(航空自衛隊 熊谷基地祭にて撮影)

89式が優れた小銃であることは確かですが、64式に問題が多すぎたため、相対的に評価が高くなっているのもまた事実。

89式が自衛隊員から愛されている理由は、信頼性の高さだけではありません。
64式の総重量が4.3kgであったのに対し、89式の総重量は3.5kgにまで抑えられており、これも隊員からの評価が高い理由の一つになっています。

64式は陸上自衛隊の普通科部隊からは姿を消していますが、予備自衛官の招集訓練や予備自衛官補の訓練ではまだ使用されています。
予備自衛官補となった筆者の友人は、射撃訓練では64式と89式の重さの差は感じないものの、行軍訓練の時にその差をひしひし感じたと語っていました。
小銃以外にもさまざまな装備を見に付けて長時間徒歩で移動する場合、800gという重量差は数字よりもはるかに大きいのかもしれません。

東京マルイの89式は、M16やM4カービンのマガジンを使用することができますが、実銃もM16などNATO標準規格(STANAG)の5.56mm弾マガジンの使用が可能となっています。
64式で使用されていた7.62mm弾は、反動を抑えるため火薬の量を減らした、いわゆる減装弾でしたが、89式の5.56mm弾は、使用している金属の成分や雷管の底の形状などは微妙に異なるものの、火薬の量や弾道性能などM16用のM885、NATO標準のSS109とほぼ同じとされています。

また、89式は1発ずつ弾丸を発射する「単射」とフルオートの「連射」のほか、1回引き金を引くと3発だけ発射する「3点バースト」が可能。多くの自動小銃では、単射/連射/3点バーストの切り替えと安全装置を兼ねたレバーを銃の左側面に設けていますが、89式は銃の右側面にあります。
これは自衛隊式の匍匐前進が銃の右側面を上に向けるので、引っかかって誤動作しないためですが、市街地戦闘などでは左手で操作する局面が多いことから、現在は左側面への操作レバーの追加が行なわれています。

このほか89式には、ダットサイトやレーザー照準具の追加といった、自衛隊の任務のあり方の変化に伴う改良も施されていますが、制式化から四半世紀を経過したこともあって、後継小銃の導入も検討されています。

現時点では国産品の可能性が高いと見られていますが、ベルギーのFNHのSCARやH&K(ヘッケラー・アンド・コッホ)のG36、オーストラリア陸軍も採用しているステアーAUG、M4カービンをH&Kが改良したHK416なども候補として取り沙汰されています。
そのためかSCARは陸上自衛隊に参考品として予算が計上されていたり、HK416は陸自と海自に「特殊小銃」として納入もされています。

HK416+GLM

SCAR(民間型のSCAR16S)

HK G36C

AUGA3(民間型のA3M1)

現在サバゲーで89式を「バディ」としている人からすれば、陸上自衛隊に新型小銃が採用されると、自分の「バディ」が型落ちになってしまうのではないかと思うかもしれません。ただ、89式も制式化から25年を経て、ようやく陸上自衛隊の普通科部隊に行き渡った程度で、陸上自衛隊の普通科以外や航空・海上の両自衛隊では、いまだに64式が使用されています。
新型小銃がいつごろから、どの程度のペースで調達されるのかは決まっていませんが、89式と同様のペースで調達されたとしても、更新完了までには20年以上かかってしまうでしょう。
ですから、安心(?)してサバゲーの「バディ」としてお使いいただけるのではないかと思います。

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竹内 修

ライターから不動産シンクタンクを経て、ミリタリー業界に迷いこんできた
自称軍事評論家。サバゲーは長期休業中だが、運動不足解消を兼ねてまた始めよ
うかなと思案する今日このごろ。L85とかF2000のような、ちょっとクセのある銃
が好き。

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