サバイバルゲームは日本発の素晴らしいカルチャーだ。 エアガンカスタム、装備の収集、ゲーム技術向上、ハマる要素は盛り沢山。 そのなかでも着目したいのは「サバゲーマー=人」。 この連載では色々な「人」をフューチャーし、様々な立場からの視点をふまえて、新しいサバゲーの魅力を伝えていく。
連載第2回:BBゲームフィールドRockHill(ロックヒル) 店長 笹岡氏
「元自衛隊空挺団が作るサバゲーフィールドとその思い」
2014年9月末、千葉県白井市にOPENした「BBゲームフィールドRockHill」。
OPENから3ヶ月弱が経つが、周りから聞こえてくる声は興味を抱かずにはいられない評価ばかりである。
「必勝法がない」
「単独行動で動けない」
「どこからでも撃てるがどこからでも撃たれる」
「今までで一番撃たれたがいままでで一番ヒットが取れるフィールド」
「運動量が半端ない」
「射撃と運動、目標の発見と識別、正確な射撃がないと勝てない」・・・等々。
RockHillの敷地は5000坪弱、バリケードのみで作られた、ぱっと見かなりシンプルな市街地フィールドだ。正直、写真を見ただけではとりたてて特徴がないフィールドにも見える。特筆すべきことがあるとすれば、全てのフィールド設計を自身で行った笹岡氏の経歴である。
笹岡氏は陸上自衛隊、空挺団出身。
サバゲーフィールドを作る為に辞職し、現在は毎週遊びに来てくれるサバゲーマーのために試行錯誤をする日々だ。
ーゲーム開始カウントの時に、ついついゴ、ヨン、サン、ニ、ヒト!っていっちゃうんですよね、なおさなくちゃいけませんね、職業病が抜けなくて困っています(笑)
などと人の良さそうな笑みを絶やさず、こちらを気遣いながら一生懸命話をしてくれる笹岡氏。何故辞職してまでサバゲーフィールドを作ろうと思ったのか?一番気になるところを聞いてみた。
ー何かに挑戦したかったんです。
元々サバゲーは好きでしたし、千葉はいまや全国で、いや世界でもトップクラスのサバゲーのメッカですよね。色々なフィールドがあって、それぞれに特色があってどのフィールドも楽しい。
でも自衛隊上がりというのはいないな、と。だったらやってやろうと思ったんですよね。
自衛隊、それも高度な適正がないと配属されないであろう空挺団に所属しながら、辞職するのに抵抗はなかったのかと質問を続ける。
ー自衛隊というのは公務員です。空挺団だって自衛隊の中で特別、ということはないです。良く空挺団はエリートなんでしょ?と聞かれますが他の隊あっての空挺団ですから。過酷な訓練をしたりする特殊な場所というイメージもあるかもしれませんが、ルーチンワークだって発生する。長くいると流れが見えてしまうんですね。もちろんそういう仕事を継続することはとても大事なことです。このまま続けるのも決して間違いではないとも思いました。
でも、高校を卒業してから自衛隊に入隊し、12年間勤務して、自分自身はこのままでいいのかな、という気持ちがあった。数年前から考えてはいたんですが、30歳を迎えて決心しました。
今までは(サバゲーについては)情報を受け取る側で、提供してもらう側で。
でも、このエンターテイメントを発信する側になりたいと思ったのが決断のきっかけですかね。
「サバゲーが好きで、サバゲーという遊びを発信する側になりたい」ー形は違うがメディアという方式を取り発信する側となった我々にも似通った想いがある、と勝手ながら、同志という単語が浮かぶ。
笹岡氏が考えるサバゲーの魅力とは何なのだろうか?
ーサバゲーって、1人じゃ遊べないじゃないですか。
仲間がいて、一緒に遊んで、そのあと居酒屋にいったりして「今日お前ああだったよなー!」とか「あれは面白かったなー!」とか盛り上がることもありますよね。
その場で遊んで終わりではないところが一番の魅力だと思います。
僕にとっては趣味や遊びというより、社交の場といってもいいかもしれません。
だから、このフィールドもそんな場所になったらいいなと思っています。
サバゲーにコミュニケーションツールとしての役割を見いだし、その楽しさをできるだけ他の人にも伝えたい、そんな思いを垣間みる。
フィールド内を散策しながら話を続ける。歩きながら笹岡氏がサバゲーの魅力についてさらに言及してくれた。
ーそれから、サバゲーの良いところはBB弾が飛んで来るところですかね。
その真意を測りかねる。サバゲーだからBB弾が飛んでくるのは当たり前ではないのか。
ー少し自衛隊現役時代の話をしますが、自衛隊の射撃訓練って弾が飛んでこないんですよ。当たり前ですけど(笑)サバゲーはちゃんとBB弾が飛んで来て、当たると痛い。
それってすごく大事な事なんです。格闘訓練もそうですがやられて痛い思いをしないと人間は学習しないんですよね。だから撃たれることがすごく大事。
そして、恐怖を感じる事。これも自衛隊現役時代の話になりますがレンジャー部隊の訓練では四六時中何が襲ってくるかわからないという恐怖と戦わなければいけない時があります。もう怖くて怖くて夜眠れなくなる。大の大人がブルブル震えるんです。
本当の「恐怖」という感覚ってそういった環境に置かれないとなかなか体験できないですよね。
でもサバゲーならその疑似体験ができるんじゃないかと思っています。誰だって痛いのは嫌ですから、多少なりとも怖い思いをしますよね。それが大事。
その感覚があるからこそ人間は発見して工夫して成長するのではないでしょうか。
そういった本能的な感情を体験することはいい刺激になると思っています。
サバゲーの怖さ、それが魅力だというのはなんともストイックである。
そして本物の極限状態を体験した笹岡氏だからこそ持てる視点であるとも思う。
怖いと思う事、それは太古の昔ヒトが野生動物から身を守るための工夫をはじめたように、最も原始的な人間の原動力なのかもしれない。いままで考えもしなかった深いところだ。
笹岡氏にお会いして初めて、「陸上自衛隊、空挺団出身」という経歴のリアルな部分に触れた気がした。
そんな笹岡氏が自ら手がけたフィールドについて俄然興味がわいてくる。
この一見シンプルなフィールドにどんな工夫があるのか。
ーバンカー(バリケード)はわざと2種類にしています。くの字か平面のもののみ。高さは人の身長以上になるように。
そして相手がどこから来るかわからないようにするため、見通しが立たないように調整して配置しています。バンカーを1つ1つ設置しては別のバンカーからどう見えるか、各方向の射線(BB弾の弾道)はどうか、を検証して、配置にはかなりこだわっていると思う。だから、ここを陣取ったら最強、というポイントもないし、完全に隠れられるようなバンカーもない。
あとは・・・・15~20mの交戦距離が一番面白くなるように設計しています。現在も微調整はしていますがこれからも有利な射線はどんどんつぶしていきますよ(笑)
筆者が驚いたのは、笹岡氏のこだわりの深さである。
全てのバンカー、障害物に対して設置の意図や攻略方法が頭に入っている。
このバンカーに隠れるとこちらからは狙えるがあのバンカーのあそこから狙われる、だから人を3人配置して・・・・などと生き生きと話すその姿からはサバゲーマーを楽しませたいという信念がひしひしと伝わってくる。
ゲームを想定してフィールドに立ってみた。
初見の印象としてはどこにいたらいいかわからない、というところだ。A,B,Cというバンカーがあったとしよう。AからBを狙っているとCから撃たれる。逆にCに注力しているとBから撃たれる。全てのバンカーがそのような形で設置されているのだ。じゃんけんでいう三すくみと言ったところか。これは・・・正直怖い。 その事を笹岡氏に伝える。
ーうちのフィールドは、1人じゃ攻略できないようになっています。2~3人で連携しないと難しいですね。先ほど怖さが大事、と言いましたがバンカーの素材もわざとBB弾が弾ける音が響くように作っています。だいたい最初は皆さん1人で突っ込んでいきますよね。そして怖い思いや痛い思いをすれば、だんだん工夫してバディを組んで攻略するようになる。
作戦を練ったり、頭をつかったり、そういうところに誘導できるようにというのは常に考えていますね。
実際にバンカーにBB弾を撃ち込んでみてもらった。
カンカンカン、とかなり大きな跳弾音がする。
ー他のフィールドに比べて、比較的どこからでも撃たれるのではないかと思います。はさみうちもしやすいですし、少しの移動で撃てるし撃たれる。隙をみて一発も撃たずにフラッグまでたどり着く、なんていうことはほぼあり得ないと思いますよ。
怖さに打ち克って、相手チームと撃ち合って撃ち勝って、仲間と連携して動いて動いて、来てくれる皆さんが本当の意味で「ゲームに勝つ」喜びが体験できる、そんなフィールド作りがしたいと思っています。
先日来たサバゲーチームの皆さんには「スーパーアクティブサバゲーフィールド」というありがたい称号を頂きました。(笑)
華美な装飾もない無骨なフィールドではある。だが、見えないところにある価値はおそらく何度か足を運ぶことで見いだせるのではないだろうか。職人が魂を込めて作り上げた一見なんでもない木机のように、使い込んでみないとわからない良さがあるのだと思う。
このフィールドは職人技だ、と思う。
笹岡氏はインタビューの最後にこう語った。
ーうちはサバゲーフィールドではなく「BBゲームフィールド」。
便宜的にサバゲーという単語を使っていますが本質の部分では、BB弾を撃ち合う事とサバイバルすることは少し違うと思っていて。もっとスポーツ的に考えていくのもありだと思います。初心者からベテランの方まで、来てくれた方が同じように楽しんで頂けたら嬉しいですね。
元・陸上自衛隊空挺団。そんな経歴を持つ笹岡氏だからこその思いや戦略がつまったフィールド。
一度訪れてみてはいかがだろうか。