小ネタから裏話まで!「ジャンクハンター吉田のアクション映画再評価」~『イ ヤー・オブ・ザ・ドラゴン』編

今週は『心に残った銃撃名場面ベストテン』の6位なのですが・・・『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』を挙げたことに意外性を持たれるかも知れません。

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『スカーフェイス』の脚本で初めて名前を知ったオリバー・ストーン(後に『プラトーン』を監督し、アカデミー賞に輝く)が脚本へ参加し、『ディア・ハンター』のマイケル・チミノ監督が撮ったヴァイオレンス満載なアクションドラマと聞いただけで、全米公開前のワクワク感がたまらなかった中学三年生の頃。
だが、アジア系に対する人種差別などが問題となりアメリカでは大コケしたと映画雑誌で記事になっていて、日本での公開まで半年近くあったことから作品に対する不安ばかりが頭をよぎったものです。

1986年の日本公開時、主役の刑事を演じたミッキー・ロークもチャイニーズ・マフィアのボスを演じたジョン・ローンもほとんど無名に等しかったので、劇場で鑑賞している際には中々感情移入ができませんでした。しかし、ジョン・ローンには東洋人の血が流れており、抜群の演技力を見せてくれていたので敵の悪側へ惹かれていく形に。
チャイニーズ・マフィアvsイタリアン・マフィアの抗争劇にベトナム帰還兵上がりの刑事ミッキー・ローク(オリバー・ストーンが恐らくキャラクター設定したのだろう)が絡んでいくというよくある物語なんですが、途中から丹精な表情で冷徹極まりない知性的な演技で魅せるジョンばかりに目が行ってしまうわけですね。
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なぜならば『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』は正直「チミノ監督作にしては駄作」な雰囲気を中学時代の筆者ですら感じてしまったからなのです。編集が雑だったからかもしれませんが、物語に対する盛り上がりとは裏腹に、”役者ジョン・ローン” を発掘した嬉しさばかりに気が取られてしまったのでしょう。130分強という上映尺も当時苦痛だったような気もしますが、チミノ監督は基本、短い作品ができない方なので、それは監督のポテンシャルが発揮されたとの解釈に留めます。

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イラスト:やまもとわかな

そんなモヤモヤばかりが頭の中をめぐっていた本作ですが、ヴァイオレンスに対して容赦ないところは大変気に入ってます。
『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』といえば、レストランでの派手な銃撃戦が最大の見所なのですが・・・もちろん、無駄に大暴れする中国人マフィア連中のドンパチはチャイニーズ・マフィアっぽさが醸し出されていて確かに良かったです。
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けれど、筆者はそのシーンよりも、白昼堂々、殺しのターゲットへ近づき、絶対外さないほぼゼロ距離から銃で顔面を撃つところが物凄くトラウマ且つ大好きな名場面なのです。殺されるターゲットが銃を向けられた時に手で顔を反射的にガードします。だが、こんな至近距離では妨げないわけで、弾が手のひらを見事に貫通し、頬に穴が開いて絶命。観ている側には痛覚を刺激してくれるし、さらに銃の恐怖をこれでもかと伝えてくれた名場面だと思うんですね。
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プロデューサーを務めたディノ・デ・ラウレンティスから生前にチミノ監督の話を少しばかり伺ったので抜粋。

「チミノとはこの作品の後にミッキー・ロークを交えて再び同じチームを結集させ『逃亡者(Desperate Hours)』という映画も作ったのだが、ミッキーが当時大変人気があったのでそれに期待しすぎたのだろう。最終的に『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』よりも興行成績が悪く、『ディア・ハンター』を観て一緒に仕事をしようと持ちかけ実現しても、最終的に赤字のまま彼との関係は終わってしまったね。
私がチミノに求めていたのは『ディア・ハンター』のような狂気じみた作品だった。『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』にはコカイン中毒だったオリバー・ストーンを参加させたので、チミノの持つ暴力性とうまく融合するかと思ったが、脚本部分で2人は衝突することもあったし、もしかしたら性格の不一致が生じて世間的に失敗作となったような気がする。
チミノも私も暴力描写には満足していたが、オリバーだけは納得行ってなかった様子だ。もっと血糊を増やしたがっていたらしいが、MPAAとの倫理的な兼ね合いであれでも随分抑えていたのだよ」

ジャンクハンター吉田
http://www.junkhunteryoshida.com/
書籍『ゲームになった映画たち』シリーズの著者であり、ゲーム・映画のコラムニスト扱いされている肥満児(非卍)かつ、体を張ったフリーのジャーナリスト。リブート版新生『ロボコップ』Blu-ray&DVD発売中。殉職したらロボコップ計画へ自分の身体をドナーとして全て提供するつもりな今年44歳のダメ人間。

 

ジャンクハンター吉田

ジャンクハンター吉田
書籍『ゲームになった映画たち』シリーズ(三才ブックス、マイクロマガジン)の著者であり、ゲーム・映画のコラムニストとして活動するかたわら、体を張ったフリーのジャーナリストとして数々の無茶ぶりなオーダーもこなす。殉職したらロボコップ計画へ自分の身体をドナーとして全て提供するつもり。

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