「ワンショット、ワンキル」…これはペルー人のルイス・ロッサ監督が1993年に撮った『山猫は眠らない』の劇中で出てくる言葉です。ストイックなまでに狙撃手へ焦点を絞った硬派な物語で、多くのミリタリーファンを唸らせ、スパイパー映画の金字塔として未だに語り継がれている作品です。
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冒頭の言葉を直訳すると「1発の銃弾で1人を殺す」という意味。主人公が使用するM40A1はボルトアクションライフルなので連射はできず、一発撃った瞬間から射撃音で潜んでいる場所が特定されてしまうこともあり、無駄撃ちは自らを危険に追い込むという意味も込められているわけですね。
狙撃手には相棒の観測手が必要で、これによって頼りになったり狙撃だけに集中することができます。スコープを覗いていると近くに敵がやって来た時に気付かないこともありますから、観測手が近くにいるだけで、効率面や安全面も向上するのです。
本作はそんなベテラン狙撃手と人を殺したことも実戦経験もない観測手2人だけの物語ですが、息の合わないデコボコなコンビ描写が観客側の目線をさまざまなところでスイッチングさせ、よりスナイピングシーンにリアルな現実感を際立たせています。
任務中に相棒の観測手を数多く失ってきた狙撃手トーマス・ベケット役を演じたのはトム・ベレンジャー。『プラトーン』など含めタフガイなイメージが強い俳優です。一方、オリンピック銀メダリストのエリート観測手リチャード・ミラーは、その後『タイタニック』で嫌な富豪を演じたビリー・ゼインが。彼らの生きてきたバックボーンの違いがスパイスの効いたコントラストとなっている部分も見所でしょう。
そんな本作ですが、筆者のお気に入り銃撃名場面は・・・劇中のスナイピングシーン全て!
なぜならば1966年の『殺しのテクニック』を小学生の時に観て、狙撃手への憧れが強くなったこともあり、それ以降スコープから覗くシーンで萌えてドキドキワクワクしてしまう変態になってしまったからです。
ちなみにこちらの作品の冒頭、ロバート・ウェバー扮する殺し屋がビル屋上で狙撃銃M742ウッズマスターを組み立て、カフェから出てきた標的をスコープ越しに狙い撃つシーンを観てから、筆者の中では狙撃銃に対する惚れ込み具合が尋常じゃなくなったわけなんです。
また、『山猫は眠らない』における一人称視点な弾の射出シーンのカッコ良さは『ジョーズ』『ロッキー2~4』『チャイルド・プレイ』などでPOV(ポイント・オブ・ヴュー)な撮影手法を若い頃から考案してきた撮影監督ビル・バトラーならでは。巧みな技術も見逃してはなりません。
トーマス・ベケットのモデルになった狙撃手はベトナム戦争で勇名をはせた海兵隊員・カルロス・ノーマン・ハスコック。彼は迷彩帽に白い鳥の羽を常につけていたことから「ホワイト・フェザー」と呼ばれ、退役後は後進の育成やらアドバイザーなどをしています。その一方、「ベトナムの英雄」と讃えられたカルロスの持つエピソードはハリウッドでさまざまな映画にインスピレーションを与えてきました。
特に『プライベート・ライアン』でスピルバーグは狙撃手同士の緊張感あるシーンを盛り込もうと、カルロスの元を訪ねて直接アドバイスをうかがったほど。1999年に亡くなるまで「全米一の狙撃手」としての認知されていたのです。
『山猫は眠らない』は現在シリーズが4作目まで日本国内でリリースされていますが、海外では第5弾が先頃登場した様子。第4弾で主役がトーマス・ベケットの息子に変わりましたが、今回は狙撃手コンビとして親子でミッションを遂行していくらしいですよ。
早く日本でもリリースしてほしい!
ジャンクハンター吉田
http://www.junkhunteryoshida.com/
書籍『ゲームになった映画たち』シリーズの著者であり、ゲーム・映画のコラムニスト扱いされている肥満児(非卍)かつ、体を張ったフリーのジャーナリスト。リブート版新生『ロボコップ』Blu-ray&DVD発売中。殉職したらロボコップ計画へ自分の身体をドナーとして全て提供するつもりな今年44歳のダメ人間。